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 アイツを見るとイライラする。顔を合わせるたびに嫌そうに顔をしかめるからだ。他のやつには何を言われてもヘラヘラ笑っているくせに。
 確か、名字名前とかいう名前だった気がする。別の女が「名前!」と呼んでいた。どんな個性をしている奴なのかは知らない。俺が覚えてないということは大した女じゃない、そこらにいるモブ共と変わらないのだろう。別に道端の石ころなんぞ意識しているわけじゃない。それでもあんな陰気くさい顔をされるのはどうしようもなくムカついた。言いたいことがあるなら言えばいい、なのにあの女はそれもしない。ただ嫌そうに見るだけだ。
 本当に、ムカつく女だ。

 3限が終わり、スマホを見ていると教室の前の方からキンキンとした声が聞こえた。
 目だけをその声の方へ向けると。あの女がよくつるんでいる女達と話をしていた。あの女の顔が赤くなっているが、俺には関係ない。だがあいつらの声がでかいせいで、聞きたくもない話が耳に入ってくる。

「名前、本当に先輩に告るの!?」
「ちょっ!?声が大きいよ!!」

 スマホが画面から落ちたが、ヒビは入っていなかった。画面を割るとあのババアがうるさいからな。修理代と、んなもん知るか。
 スマホが落ちたときの音が響いたからか、あいつらからの視線を感じたが、目を向けたときにはもう会話に戻っていた。

「ごめんごめん。えー、でも本当に告るの?本当に?」
「何度も聞かないでよ!だって先輩もう引退するし……。あ!も、もう休み時間も終わるしちょっとトイレ行ってくる!」

 そう言ってあの女が走って教室を出ていく。
 あの女が出て行った後、他の女達がため息を吐きながら顔を見合わせていた。

「名前、先輩の噂知らないのかな?惚れさせるだけが目的で、それで友達と馬鹿にしてるって」
「同じ部活なんだし、知らないことないと思うけど。私だったらそんな男絶対嫌だけど、あんな顔して先輩の話されちゃ言えないよ……」

 スマホをスライドしていたら広告に触ってよく分からないサイトに飛ばされた。くそ、イラつくんだよ。
 舌打ちをした俺に機嫌が悪いのかとかけられた声を無視して、あの女達を見る。
 結局、アイツは授業が始まるまで戻ってくることはなかった。

 家に着いたところでスマホを机の中に置き忘れていたことを思い出し、また学校に戻るのかとイライラした気持ちで頭を掻く。今日はろくでもない日だ。それもこれも、全部アイツのせいだ。

――だって、先輩もう引退するし……

「……クソ」

 そう言ったアイツの顔は今まで見たこともなかった。たかが3年間同じクラスだっただけの石ころごときにイライラさせられているということが、さらに俺を苛立たせた。
 学校に戻ったときには部活をやってるやつらも帰っていて、今日は放課後の部活時間が短い日だったことを思い出した。
 帰宅部のくせにと俺を二度見してくるやつらを睨み返しながら、教室に続く廊下を歩く。教室に近づくと誰もいないはずの教室の中から話し声が聞こえる。その声は、俺をイラつかせる元凶のアイツの声だった。
 中にいるのはアイツと、上履きの色からして1個上の学年の男だった。

「先輩、来てくれてありがとうございます」
「名前の頼みだからな。それで用って何のことだ?」
「あの――」

 用なんざ聞かなくても猿でも分かるだろ。俯いている名字にはいけ好かない表情をした男の顔は見えない。顔を上げてみろ。その男の顔を。それなのになんでお前はそんな顔して、お前を馬鹿にしようとしている男なんかに告ろうとしてる。俺が、一度も見たことない顔をして。
 顔も耳も赤くして、涙目になりながらまっすぐにあの男を見る名字に腹が立って、アイツが口を開いた瞬間、思い切り教室の戸を蹴り開けた。
 外れることはなかったが、でかい音を立てて開いた戸と俺の姿に名字が目を丸くして見る。すぐさま眉をしかめたことが気に食わなかった。

「爆豪、だっけか。噂通り、乱暴な奴だな」

 そういう男は、邪魔するなと言わんばかりに俺を睨みつけてきたが、そんなことはどうでもいい。それよりも名字が心配そうに男を見上げたことがどうしようもなくムカついた。

「取り込み中なんだけど見てわかんな――」
「うるせえ」

 男の言葉を遮り、名字の前に立つ。名字は眉をしかめて、睨みつけるように俺を見上げてきた。

「……邪魔しないでよ」
「うぬぼれんな。スマホ取りにきただけだ。別にお前みたいなやつがこんなクソ男に告ろうが知ったこっちゃねえよ」
「先輩のことそういう風に言わないで」
「クソをクソって呼んで何が悪い。コイツはお前に告らせるのだけが目的で、それを笑いもんにしようとしてんだぞ」

 名字が体を強張らせるのと同時に視界の端で男が身じろいだ。ここまで言えば名字も目が覚めるだろう。名字に背を向けて机の中のスマホを手に取る。

「まぁ笑い者になっても良いってんなら勝手にしろよ」
「……知ってるよ。そんなこと。でも、好きなんだもん」

 後ろを振り返る。スカートを握りしめて泣く名字の姿に吐き気がした。

「……そうかよ」

 せっかく忠告してやったというのに。勝手にすればいい。後ろを振り返ることもなく、教室を出た。
 校門を出て、今さっきまで歩いていた道を戻る。吐き気はおさまらない。
なんで、俺がこんな思いを―――

「クソっ!!」

 あの名字の姿を思い出して吐き気が増し、衝動的にスマホを地面に叩きつけた。それでも吐き気はおさまらず、残ったのはむしゃくしゃした思いと画面が粉々になったスマホだけだった。


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