5000hit | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「あー疲れた!なぁこの後マックとか寄ってかね?」
「いいな!今確かポテトのLサイズセールやってたろ?」
「あーっと、俺はパス」

放課後の自主トレーニングを終え、体操服から制服に着替えていた上鳴が更衣室にいるクラスメイトを寄り道に誘う。
峰田や切島が誘いに乗っている中、瀬呂は既に制服に着替え更衣室を出ようとしていた。

「じゃ、お先」

しきりに腕時計を気にして慌しげに更衣室を出て行った瀬呂に、更衣室に残っている生徒達が目を合わせる。
ここ最近瀬呂のノリが悪いことに気付いた上鳴と峰田が顔を顰めた。

「まさかアイツ……女か!?」
「その可能性は高いな……あの裏切り者め……!」
「いいからさっさと着替えてマック行こうぜ」

恨めしげに扉を睨む上鳴と峰田に、制服に着替えた切島が呆れたように声をかけた。



「名前!悪ぃ、待たせちまったな」

更衣室から走ってきた瀬呂がエントランス前のベンチに座る少女、名前に申し訳無さそうに手を合わせる。

「ううん、私もさっき終わったところなの。お疲れ様、範太くん」

そんな瀬呂にふにゃりと笑いかける少女。
背中に見える縞模様の入った大きな尻尾が喜びを表すかのように左右に振られた。

シマリスの個性を持つ名前と瀬呂は母親同士の交流がきっかけで4歳の時に知り合い、それ以降小中と共に過ごしてきた。
ヒーロー科である瀬呂と経営科の名前とではクラスが離れているため、校内で会うことはほとんどない。が、わざわざ分かれて帰ることもないため、名前の部活があるときは一緒に下校をするようにしていた。

「今日はね、カップケーキを作ったの」

名前が抱えていたリュックサックの中からラッピングされたカップケーキの入った袋を取り出す。女子らしく可愛くラッピングされたそれを瀬呂に手渡す。
名前はランチラッシュが顧問をしている料理部に入っている。今日のようなお菓子作りをすることもあれば仕込みに数日かけて作る料理など多岐に渡っていた。

「牛乳のかわりに豆乳を使ってくるみを入れてみたの」
「へぇー美味そうじゃん。食ってもいい?」
「うん、どうぞ!」

頷く名前を見た瀬呂が袋の口を開けるとカップケーキの甘い匂いが広がり、自主トレ後の瀬呂の鼻孔をくすぐる。
瀬呂が大きく口を開けたその時、

「瀬呂お前まだいたのかよ!」

後ろから大きな声で名前を呼ばれ、カップケーキを持つ手が止まる。
瀬呂が振り向いた先には、マックへ行こうと話をしていたクラスメイト達が立っていた。

「あんな急いでっから何かあったのかって思ったけどよ……って、あぁ悪ぃ」

瀬呂の後ろに立っていた名前と瀬呂の手の中にあるカップケーキで察した切島が早々にその場を後にしようとする。しかし、それを見た上鳴と峰田はまるでこの世の終わりのような表情をして立っていた。

「マジかお前……!手作りのお菓子とかマジか……っ!俺たちはマックだってのにお前は手作りのお菓子とかマジか!!」
「いつの間に彼女なんか作ってやがったんだよォ!!」
「おまえら周り見ろよ。ドン引きだぞ」

モテない男達の叫びに下校する生徒達とそれを指摘した切島の表情は引きつっていた。
それを瀬呂の後ろから覗いた名前が瀬呂の名前を呼ぶ。

「範太くん、もしかして範太くんのお友達?」
「あー……」

恥も外聞も捨てて叫んでいる男達を友人と呼ぶことに抵抗を感じながらも小さく頷く瀬呂。
そんな瀬呂を見て、リュックサックの中からカップケーキの入ったタッパーを取り出した名前が地面に手をついて叫ぶ上鳴と峰田に近寄った。

「あの、範太くんの幼馴染の名字名前です。これ、もしよかったら食べてくださ――」
「「マジすか!!」」

名前が言い切る前に勢いよく顔を上げる上鳴と峰田。そんな2人に物怖じしながらも名前は頷き、タッパーの蓋を開いてカップケーキを差し出した。

「おおお!めっちゃうまそう!!いっただきまーす!!……って何だこれ超うめえ!!」
「甘さ控えめに素材そのままの味を生かした優しい味わいが傷心の身に沁みるぜ……!」
「へへ、美味しかったなら良かったです」

テンションがおかしなことになっているが、美味しそうに食べる峰田と上鳴に名前が嬉しそうに笑みを見せ尻尾を左右に振る。
そんな名前を見た峰田と上鳴が天使……と呟いた声に瀬呂が面白くなさそうに鼻を鳴らした。

あっという間にカップケーキを平らげた後も名前に話しかける峰田と上鳴に痺れを切らした切島が2人を引きずり学校を出て行った。
途端に静かになり、名前が空になったタッパーをリュックサックの中にしまう。家に帰ってから食べようと入れていたカップケーキのほとんどは峰田と上鳴の2人によって綺麗に片付けられた。作ったものを美味しいと言ってもらえたことが嬉しかった名前はあまり深くは気にしていなかったが、瀬呂は相変わらず難しい顔をしていた。

「範太くんのお友達、皆良い人だったね」
「……おう」

ハイエナのようだった2人を果たして良い人と言えるのか、と思いつつ嬉しそうにしている名前の顔に毒気が抜かれ苦笑する瀬呂。思えば昔から幼馴染のこの笑顔に弱かった。
彼女か、という峰田の言葉にはあえて何も言い返さなかった。昔からそうだったように。

クラスメイトの乱入によって手に持ったまま食べ損ねたカップケーキを一口かじる。冷めてもその美味しさは変わらず、健康志向である瀬呂のことを考えて豆乳で作られたというのもカップケーキの美味しさを引き立てた。

「やっぱ名前が作るのは美味いな」
「ほんと!?良かったぁ」

上鳴や峰田のときよりも尻尾を大きく振りホッとした表情をする名前の頭を瀬呂が撫でる。
やめてよ〜と言いつつも嬉しそうな顔をしている名前を見て、先ほどまでの面白くないという気持ちはどこかへと消えていた。



back