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雄英を受けたのは親に言われたからだった。
普通科にも合格できなければ家から追い出すと言われれば、どんなにクズでも死ぬ気で勉強すると思う。
私の家族は皆優秀で全員雄英を主席で卒業していた。卒業後はそれぞれの得意分野で働き、その方面では名の知れた人たちになっている。
私はそんな完璧な家族の唯一の汚点だった。


「ねぇ名字さん、一緒にA組見にいかない?」

いつも教室で目が合えば挨拶をする程度には仲良くしてもらっている女子生徒が声をかけてきた。
疑問系で尋ねられたはずなのに、既に彼女の手は私の制服の袖をつかんでいる。
ここで断ったらノリが悪いと思われてしまうかもしれない。小さく頷くと、彼女に袖を引かれA組の教室へと向かった。

死ぬ気で勉強したおかげか、普通科には何とか合格することが出来たけど、普通科より難しいヒーロー科に落ちて滑り止めで普通科に入学したような人たちばかりで、私は彼らについていくのが精一杯だった。
きっと私とは頭の出来が違うんだろう。
A組といえば、敵の襲撃を耐えたとして学校中で噂になっているクラスだ。それに将来がかかっている体育祭も近いということもあって、A組の前は既に人でいっぱいだった。
もうきっと見れないだろうから帰ってもいいんじゃないかな。口にはしないけど。

人ごみの中で頭一個分高い人は多分同じクラスの心操くんだろう。
人を掻き分けていった心操くんが扉の前でA組の人たちに宣戦布告をした。
ヒーロー科以外の人が全員下克上しようとしてるみたいに言うのやめて欲しい。別に、私は今のままでいいのに。
私は皆が当たり前に出来ていることですら出来ない人間だから。

体育祭全員参加だけど熱とかがあったら休めるよね。なんてことを考えていたら、A組の生徒が人を押し退けて無理矢理人ごみの中を通ろうとしていた。

「退けモブ共!!」

聞き覚えのあるその声に無意識に下を向く。
その声の主とは中学が一緒で、運の悪いことに3年間ずっと同じクラスだった。

「わっ!」

一緒に来ていた子が人ごみに押され、咄嗟に私に捕まる。
でも、下を向いていてそのことにすぐに気付けなかった私は、バランスを崩し床に尻もちをつくように倒れた。

倒れた音は思っていた以上に響き、その場にいた全員の視線を感じた。
そして、その視線の中には彼も含まれていた。

「……っんで、お前がここにいるんだよ」

彼の地を這うような低い声に口から声にならなかった悲鳴が漏れる。

爆豪勝己。中学3年間、私は彼の言いなりだった。





(緑谷SIDE)

「来い!」
「っ、ごめんなさい……」

かっちゃんが腕を引っ張って助け起こした女子は僕とかっちゃんと同じ中学出身の名字名前さんだった。
何で名字さんが雄英に、と思う前にかっちゃんは無理矢理名字さんの腕を引っ張り廊下を去っていった。
僕以外の今の場面を目撃した全員が騒然としていた。


中学時代の名字さんは飛びぬけて目立つような人ではなくて、学校では自分の席で静かに読書をしているような人だった。でもそれはかっちゃんがいないときだけで、かっちゃんがいるときは常にかっちゃんの隣が名字さんがいた。

かっちゃんは勝負事以外に執着をすることが滅多に無かったけど、何故か名字さんのことに関しては妙に執着していた。
しかも、かっちゃんは名字さんへの行動を自覚していなくて名字さんがクラスメイトと話すだけでキレるような奴なのに、自分がキレたのは全部名字さんのせいにしていた。
元々名字さんは自己主張が少なく大人しい人だったけど、中学の3年間で何事に対しても消極的になってしまい、かっちゃんの言いなりだった。

何でかっちゃんが名字さんにあれほど執着するのか。
詳しいことは分からないけど、もしかしたら彼女のお母さんの個性が関係しているんだと思う。

名字さんのお母さんは『魅了』という個性を使うアングラ系ヒーローの1人で、『魅了』にかかった人は『魅了』の使い手の言いなりになってしまう。
でも名字さんのお母さんの『魅了』の個性は不特定多数の人に効果があるはずなんだけど、名字さんの個性はあくまでかっちゃんだけにしか効いていない。しかも言いなりになっていたのは名字さんの方だった。一体、何故。

「おい緑谷ブツブツ言ってないでよ、さっきの子って爆豪の知り合いか?大丈夫かよ、アレ……」

瀬呂くんの言葉に我に返る。
既に廊下にいた人たちはいなくなっていて、残っているのはA組だけだった。

「爆豪……あいつそっち系の……」
「いや、さすがに学校内では無いだろ……なぁ緑谷どうなんだよ」
「……多分、変なことはしないと思う、よ」

上鳴くんに尋ねられ、歯切れ悪くなりながらも答える。
中学時代、名字さんに対してかっちゃんは怒鳴ることはあっても手を上げることは絶対に無かった。それよりも名字さんと話をしていた人達に対して手を出すことが多く、次第に名字さんに話しかける人はかっちゃんだけになっていって、それも名字さんが消極的になってしまった原因のひとつなのかもしれない。

昔の女か?なんて皆が話していて、僕もそれが本当なのか間違っているのかは分からない。
ただ、かっちゃんが名字さんに対して異常とも言える執着を持っていることは確かだった。


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