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1年A組のマスコット、そんなあだ名を持つクラスメイトがいる。
彼女の名前は名字名前、『熊』の個性を持つ女子生徒だ。
入学試験では2Pロボを腕のひと振りで撃破してしまうほどの強力な個性を持つ名字さんだが、高い攻撃力に反して彼女自身は小柄で愛嬌のある人だった。
彼女の周りには常に人(特に女子)が絶えず、最近ではあの爆豪や轟も彼女に絆されているように見える。いくら名字さんでも鮭丸々一尾は食べないと思うんだけどな。

だけど、そんな名字さんに何故か俺は嫌われているみたいだ。
嫌われているまでは言い過ぎだと信じたいけど、苦手とは思われているかもしれない。


「お、おはよう名字さん」
「あ、尾白くん……おはよ」

例えば、下駄箱で靴を履き替えている名字さんと目が合って挨拶をするけどどこかよそよそしいときとか。
他の人のときはそんなことないんだけどな。

「はよーっす」
「あ、上鳴くんおはよう!」
「……おはよう」

たとえば俺のときは顔をしかめて話しているのに、ほかの奴の前では笑顔で話しているときとかもそうだ。
上鳴がドヤ顔でドンマイというように親指を立てた。何か腹立つ。


今日ヒーロー基礎学は2人一組でペアを組み、一対一で戦うというものだった。
くじ引きの結果、おれのペアは名字さんで、決まった瞬間に眉間にしわを寄せた名字さんにちょっと凹んだ。

ホント、何で俺こんなに嫌われてるんだ……。
名字さんに何かしてしまったのだろうかと考えても、なにも思い浮かばない。
そもそも、名字さんとは授業でチームを組むのだってこれが初めてだというのに。
いったい何でなんだ。

「っ尾白くん!!」
「えっ、」

名字さんの焦ったような声に、我に返る。
その瞬間、名字さんの右フックがこめかみに直撃し、目の前が真っ暗になった。


目を覚ますと真っ白い天井が見えた。消毒液の匂いがするから保健室だろうか。
そんなことよりも……。意識を失う前の自分の失態に寝ながら頭を抱える。
授業態度が最悪だったこともそうだけど、何より名字さんに真摯に接していなかったということがショックだった。
何をやっているんだ自分は……名字さんに合わせる顔がない。

「ハァ……」

とにかく、自分なりのけじめとして名字さんに謝ろう。
そう思い体を起こす。

「あっ」

名字さんの声が聞こえたと思ったら、足側のベッド柵のところに彼女がしゃがんだ状態で目を見開いていた。
しまった!と言わんばかりの表情で固まる名字さんに、まさかそこにいるとは思わず自分も固まる。

「……何してるの?」
「あ、あのね……」

立ち上がり、せわしなく視線を彷徨わせていた名字さんだったけど、一度大きく頷いた後、意を決したように頭を下げた。

「お、尾白くんの尻尾、触らせてください!!」

「えっ」


あの後、今までのよそよそしさが嘘のように笑顔で尻尾を触る名字さんから何とか話しを聞いたところ、俺の尻尾が羨ましくて我慢するのについ素っ気無くなってしまったということらしい。
……内心何のこっちゃと思ったけど、彼女の個性である『熊』の尻尾は短いためモフモフできない!というのが名字さんの言い分だった。

「あ〜、やっぱり思った通りのフワフワ加減〜」
「名字さん、そろそろ教室に戻らないと……」

「まったく騒がしいね!!起きたなら起きたで伝えんさい!!」

尻尾の先に顔をうずめるのを止める気配の無い名字さんに声をかけようとした瞬間、保健室のカーテンが開き、リカバリーガールが現れた。
名字さんもさすがに顔を上げたが、尻尾から手を離すことは無かった。


「尾白くん、今までごめんね……」

リカバリーガールに異常なしと診断され、教室へと戻る。
申し訳なさげに眉を下げて謝る名字さんだけど、その視線は俺の尻尾を追っていた。

「いや、嫌われてたってわけじゃなくて良かったよ」

尻尾を左右に振ると、それに合わせて名字さんの体も左右に揺れるのが面白くて思わず笑ってしまいそうになる。

「そんな!こんなフサフサの尻尾を持ってる尾白くんを嫌いになんてなるわけないよ!!」
「……うん」

まぁ、嫌われていないだけいいよな……。
それにしても自分の尻尾にこんなに魅力があったなんて。新たな発見だった。

「あの、たまにでいいからまた尻尾触ってもいい?」
「別に減るものでもないし、言ってくれればいつでも触っていいよ」
「っありがとう!!」

そう言った瞬間の名字さんの顔は、今まで見たことも無いくらい輝いていた。


教室へ戻ると、いつものように授業の反省会をしていた。

「おー、尾白大丈夫だったか?」

気付いた瀬呂が手を挙げるのに合わせて、他の皆も振り向く。

「漫画みたいに綺麗に吹っ飛んでいったよね!尾白くん!」
「ハハハ……」
「あれ?それより名字は?一緒に戻ってないの?」

葉隠さんの言葉に苦笑していると、芦戸さんが名字さんのことについて尋ねてきた。
ちょうど俺の背中に隠れていて見えないんだろう。少し体をずらし尻尾を上げる。

「え!?名前ちゃん!?」

上げた尻尾にぶら下がる名字さんに驚きの声を上げる葉隠さんだったが、他の皆も驚いているみたいだった。そりゃ、今まで避け続けてきてたんだから驚くよな。俺もいまだに信じられないし。

「あ〜。モフモフ〜」
「なぁ名字、今日この後なんか食べに行かね?この前オープンしたばっかの店なんだけどよ、」
「今度ね〜」

今まで誘いを断ることの無かった名字さんに話が終わる前に断られ、上鳴が灰のように真っ白になって立ち尽くしていた。
それに我関せずと言わんばかりに名字さんは俺の尻尾の毛先に顔をうずめている。
燃え尽きている上鳴に、今朝の仕返しも込めてドンマイと親指を立てた。


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