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先生の手伝いをしていたら遅くなってしまった。
小走りで焦凍くんの待つ昇降口へ向かうと、知らない女の子が焦凍くんにプレゼントを渡していた。
咄嗟に柱の陰に隠れて2人を見る。

「轟くん!あの、良かったらこれ受け取ってください!!」
「あぁ、悪いな」
「っこれからも頑張ってください!ずっと応援しています!!」

可愛くラッピングされたプレゼントを受け取った焦凍くんに、女の子は顔を赤くしながら私の横を走り去っていった。

体育祭以降、焦凍くんのファンは一気に増えた。
元々少なからずいたけれど、以前は受け取らなかったプレゼントを受け取るようになったのも、ファンが増えた理由のひとつなのかもしれない。
雄英に入ってから焦凍くんと話すことよりも周りから焦凍君の噂を聞くことの方が増えた。
こんなんで私は焦凍くんと付き合っているなんて言えるのかって自分で思って少し悲しくなった。

私と焦凍くんは付き合っている。……多分。
恋人らしいことなんて一緒に下校するくらいで、2人でどこかに出かけたことも、手を繋いだことも、焦凍くんから名前で呼ばれたことも好きと言われたことも無かったから。
焦凍くんとは中学の3年間同じクラスで、最初は口数が少なくて冷たい人っていう印象を持っていた。
でも、体調が悪いときに「大丈夫か?」って声をかけてくれたり、高い所にあって手が届かない物を取ってくれたり、そんなさりげない気遣いが出来る人で憧れの人だった。
そのうち焦凍くんと挨拶するだけで嬉しくなったり、話すだけでドキドキしたりして、自分は焦凍くんが好きなのかもしれないって思ったとき、その気持ちが胸にストンと落ちてきた。
焦凍くんへの気持ちを自覚したとき、もし雄英に合格できたら焦凍くんに告白しようと心に決めた。それから勉強も必死に頑張って、何とか雄英に合格して卒業式の日に焦凍くんに告白した。
緊張しちゃって思っていたように告白できなかったかもしれないけど、それでも焦凍くんが「あぁ」って頷いてくれて嬉しくて思わずその場で泣いてしまったことを覚えている。
雄英に入ってからは出来る限り焦凍くんをサポートしていこうとか色々考えていたけど、クラスが変わってからはカリキュラムがほとんど違うから下校するときくらいしか話すことも出来なくなってしまっていた。

「名字、そんなとこで何やってんだ?」
「っ!あ、えっと……」

いつの間にか隣に来ていた焦凍くんに声をかけられ、思わず飛び上がりそうになる。
遅くなってごめんね、とか言わなくちゃいけないのにしどろもどろしてしまい、言葉が出ない。

「ほら、帰るぞ」
「……うん」

さっき受け取っていたプレゼントは鞄にしまったのだろう、何事も無かったかのように先を歩く焦凍くんの後を追った。

帰り道を歩きながら、さっき下駄箱で見た光景を思い出す。
焦凍くんがプレゼントを貰っているところを見るのはこれが初めてじゃない。ここ最近はほとんど毎日のように渡されている姿を見ていて、その度に心がざわついた。
プロヒーローを目指す焦凍くんにとってファンが増えることは嬉しいことなのに、それを素直に喜べない自分がいる。そんな自分が本当に焦凍くんの隣にいていいのか、とかそんなことがずっと頭をぐるぐると回っていた。

「……名字、おい、」
「え?、うわっ!」

名前を呼ばれ、顔を上げるとすぐ目の前に焦凍くんがいて急には止まれず焦凍くんにぶつかる。
庇うように伸ばされた腕がまるで抱きしめられてるように感じてしまい、思わず顔が熱くなる。

「あ、あの!ごめんね!!」
「……名字、今日お前どうした?」
「えっと、何もないよ?ごめんね、支えてもらっちゃって……」

焦凍くんに申し訳ないと慌てて離れようとしたけど、伸ばされた腕は解かれることなく背中へと回された。
本当に抱きしめられているような格好に、思わず変な声が出てしまう。

「しょ、焦凍くん!?」
「いつものお前なら、何も言わずに俺の後ろ歩いてたりしねえだろ」
「そ、そうかな……」
「何かあったのか?」

真っ直ぐに私を見てそう聞いてきた焦凍くんは本当にかっこ良くて、自分には勿体無い人だと思った。
ファンの女の子達に嫉妬してる自分が惨めで思わず涙がこみ上げてきたけど、そんな顔を見られたくなくて俯く。

「……名前、俺には話せねえことなのか?」
「っ!」

初めて名前を呼んでくれた嬉しさと、焦凍くんにそこまで言わせてしまったという申し訳なさに堪えていた涙がこぼれた。
違う、焦凍くんが悪いんじゃない。そう思い頭を横に振る。

「わ、私、ファンの子に、嫉妬してた……っ。本当は、焦凍くんのこと応援しなくちゃ、い、いけないのに。……っこんな、私が、焦凍くんの隣にいたらっ、ファンの子にも、焦凍くんにも、申し訳ない、って」

涙声で聞き取り辛いだろう私の言葉に、焦凍くんは何も言わず黙っていた。
俯いているから焦凍くんがどんな顔をしているのか分からない。もしかしたら呆れているのかもとか、愛想つかされてしまうかもしれないと思うと恐くてまた涙が溢れてきた。

「……下駄箱の、見てたんだな?」

焦凍くんの言葉に小さく頷く。

「何も言わなくてもお前が分かってると思ってた。悪ィ」
「し、焦凍くんは悪くないよ……私が「けどな」」

私の言葉を遮るように続ける焦凍くん。
焦凍くんの手が私の頭に乗せられ、思わず肩が震えた。

「……俺は、好きでもない女と一緒に帰らねえし、付き合ったりもしねえよ」
「!!」

思わず頭を上げると、そこには顔を赤くした焦凍くんがいた。
焦凍くんと目が合い、頭に乗せられた手に力が込められた。

「、見んな」
「っうん!」

卒業式の日に告白して初めて焦凍くんの気持ちが聞けた。
ぶっきらぼうだけど、その言葉の端々には焦凍くんの優しさが感じられて、それだけで十分だった。

「あのときと同じだな」

焦凍くんの言葉が嬉しくて涙が止まらない私に、焦凍くんが笑いながらそう言ってくれたことが、どうしようもなく幸せだった。




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