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「はーい、それじゃあ皆お疲れ様ってことで」

「「乾ぱーい!!!」」

ミッドナイトが音頭を取り、ジョッキを鳴らす。
想像していた敵襲撃などの事態が起こることもなく終わった雄英体育祭。
ヒーロー御用達の居酒屋の個室では雄英高校1学年教師陣による打ち上げが行われていた。

「ぷはー!!やっぱり仕事終わりのビールは最高!」
「相変わらず良い飲みっぷりねぇ〜。名前ちゃん」
「いやいや、ミッドナイトさんには負けますよ!」

アハハハと陽気に笑いながら一杯目のビールを飲み干した女性陣に、戦々恐々とする男性陣。

「オイ、誰だあの2人を並んで座らせた奴は……」
「気付いた時には既に座ってましたね」
「前の飲み会であの2人は並ばせないようにって決めたじゃないですか!」

ブラドキング、セメントス、13号が顔を寄せ小声で話し合っている。
以前にも1学年教師陣で飲み会をした際にミッドナイトと名字が隣り合って座ることになったが、その時は酷い有様であった。当人達は二日酔いをすることもなくすっきりとした表情で出勤をしたが、その2人に付き合わされた周りのほとんどは二日酔いのまま授業をすることになったのだ。当時を思い出し、男性陣の表情が思わず苦いものとなる。

「ナラバ13号、君ガアノ2人ノ間ニ入ルガイイ」
「えぇっ!?嫌ですよ!?あっ、エクトプラズムさんが間に入れば先輩達も静かになるんじゃ……」

エクトプラズムさんなら絡み辛いし!と言外に言う13号。
少しの間沈黙をしたエクトプラズムであったが、枝豆を手に取りボソリと呟く。

「……我、枝豆ヲ所望ス」
「すごいわざとらしく逃げましたね……」
「逃げたな……」

それを見たセメントスとブラドキングが未だ苦い顔をしたまま、ジョッキを傾けた。


「真打ちの登場だぜー!!盛り上がってるかー!?」

プレゼント・マイクとイレイザーヘッドが遅れて打ち上げの場へとやってきた。
並んで座っている名前とミッドナイトを見たイレイザーヘッドが部屋の隅の方で固まって飲んでいる男性陣を睨む。
何故あの2人を並ばせたという気持ちを込めて睨みつけるイレイザーヘッドに、男性陣は不可抗力だったんだ!と視線を送った。

「あーら!!やっと来たわね!!さぁ飲み直すわよ!!」
「すいませーん!!ジョッキ生6つお願いしまーす!!あ、あとエイヒレも!!」

男性陣の意見を聞くことなくさっさと注文をしていくミッドナイトと名前。既に出来上がっている2人に、今日も長くなりそうだとイレイザーヘッドが声にならないため息を吐いた。


「やっぱり結婚してからも刺激って大事だと思うのよね〜。いつまでも女は女でいたいのよ!!」
「うーん、刺激も大事ですけどやっぱ結婚に求めるなら安定ですよ!堅実に生きてナンボですって!!」

ガールズトークとは名ばかりの生々しい結婚話に華を咲かせる女性陣。しかし、適齢期を迎えている彼女らの目はまるで餌に飢えている獣のようだった。

「……女の人って……」

ヘルメット越しの13号の声が震えているように聞こえるのはおそらく気のせいではないのだろう。両隣に座るブラドキングとセメントスが13号の肩を叩いた。

「結婚するならスナイプ先生みたいな人がいいですよね!キャー!言っちゃった!スナイプ先生かっこいいー!!」
「あの人妻子持ちだろうが」

自分の発言に照れくさくなり、両手で顔を押さえ壁にもたれかかる名前にぼそりと呟くイレイザーヘッド。
同期の言葉を聞いた名前が体を起こし、手に持っていた何杯目か分からないジョッキを突きつけた。

「知ってるわよ!あー、一般人女性と結婚したってニュース流れたときはショックだったな……」
「オメー高校ン時からスナイプのフォロワーやってたもんなぁ」

マイクの言葉に名前が大きく頷く。
名前とプレゼント・マイクとイレイザーヘッドは3人とも雄英ヒーロー科の出身であり、同じクラスだった同期だ。
高校の3年間を共に過ごしていればお互いの好きなものくらいは把握しているものだった。

「でもそうねぇ、安定した生活がいいっていうならやっぱり同年代の人のがいいんじゃないの?歳も近いと話せることも多いしねぇ……って近くにいるじゃない!イレイザーとマイクとか!!」

ミッドナイトの言葉にイレイザーヘッドがむせこむ。
しかしイレイザーに目を向けることなく、名前は瞠目したが噴き出すように笑いだした。

「あはは!無いですってそれは!ありえない!!」
「あら?そうかしら?」
「だってこの2人生活能力無さそうじゃないですか!それに家事も手伝ってくれなさそうだし!」
「オイオイ!オレの主夫力なめんじゃねー!!」
「うーん、そうねぇ……」
「否定しねえのかよ!!」

濁すような言い方をするミッドナイトにマイクが笑いながら突っ込みを入れる。
名前とミッドナイトとマイク、3人の酔っ払いの勢いは留まることを知らなかった。


ようやく1人、1人と酔いつぶれていき1学年教師陣による打ち上げは終了した。
イレイザーヘッド、もとい相澤は現在名前とマイクと共にタクシーに乗って帰路に就いている。
同期のよしみだからと他の同僚に半ば無理矢理に、2人を押し付けられた相澤。いつものこととは言え、全身を包帯で覆われている怪我人である。

「おい、着いたぞ」

タクシーが名前のアパートの前に停まる。ヒーローデビュー当時から住んでいるというアパートは相澤にとってもすっかり見慣れたものとなっていた。
寝ている名前の肩を叩き帰宅を促す。

「うぅ……いやだぁー帰りたくないー」
「ガキじゃねえんだからさっさと帰れ」

名前は目を開けることなく首を左右に振り、帰宅を拒んだ。
もう一人の同期も送っていかなくてはいけない相澤は、少しばかり語気を強くして再び名前の肩を叩く。

「1人は寂しいよ……やだよー」

笑い上戸の次は泣き上戸かと思いつつも、名前を見つめる相澤。
ここ最近、高校時代のクラスメイトや知り合いの結婚報告や出産報告が相次いでいた。
ミッドナイトと笑いながら話していたこともあながち冗談では無かったのだろう。
そんな事を考えながら相澤は溜め息を吐いて、タクシーの運転手に先にマイクの家に向かうように伝えた。


マイクを叩き起こしてタクシーから降ろし、相澤と名前は再び名前のアパートへと向かう。
名前は目を覚ましてはいるが、まだ覚めきっていないのかその目は半分しか開いていない。

「私ね、ヒーローになるって決めたときは自分1人でも生きていけると思ってたんだ」

ぽつぽつと小さく呟く名前に相澤は静かに耳を傾けた。

「でも最近思うんだ。もしこのまま1人で生きていって、いつか死ぬってなったときどうなるんだろって」

相澤が横目で名前を見る。名前は窓に顔をもたれかけるように座っていた。

「もしかしたら1人孤独に死んでいくのかもしれないって思うと……それがすごい恐い」
「……考えすぎだろ」

窓の外に目を向ける。先ほどとは違う道を通っているが、もうすぐ名前のアパートに着くだろう。
ヒーローに独身が多いのは何も出会いが少ないからだけではない。
前線を退いたとはいえ、先日の敵襲来などヒーローは常に生死の狭間に立たされている。それは相澤が一番よく知ることであった。
人一倍結婚願望がありながらも結婚を諦めている名前を非合理的だと嗤えなくなったのはいつからだったろうか。
素面の相澤であればこんな事は考えたりもしないし、口を開くこともなかったに違いない。

「……何があってもお前1人で死なせねえよ。それに、俺が――」

そう言って名前に顔を向けると、名前は目を閉じて寝息を立てていた。
思わず言葉を失う相澤。
視線を感じ、相澤が前に目を向けるとルームミラー越しに運転手と目が合う。

「……難儀なものですね」

全てを悟っているかのように微笑する運転手から目を逸らすように、相澤は目を閉じた。


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