明日は明日の風がふく(旧) | ナノ
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小学生の時から毎朝、海までランニングに行くことが私の日課になっている。

それがここ最近、浜辺沿岸の海浜公園で清掃活動をしている私と同い年くらいの少年を見かけるようになった。


この海浜公園は相次ぐ不法投棄によって、今では観光客はおろか地元住民すら近寄らないゴミ捨て場と化していた。これまでにも何度かボランティアが集まり清掃活動を行っていたが、それ以上にゴミを捨てていく人が多く、現状は変わらなかった。

その事を知っているのか知らないのか、彼は毎日1人でゴミを片付けていた。


今日も海岸沿いを走っていると、ゴミ山の中に倒れている彼を見つけ、思わず彼の元へと駆け寄った。

彼の側に膝をつき、呼吸を確認する。
規則正しく胸は上下し、小さく呼吸音が聞こえた。

ただ寝ているだけみたいだ。
命に別状は無いようで安堵の息を吐く。

ふと少年の周りを見回すと、少しずつ公園のゴミが減っているように感じた。

名前もその目的も知らないが、1人で毎日ひたすらゴミを片付けている彼に私は密かに好感を持っていた。


彼のものと思われたタオルと水筒を頭の横に置き、そっと立ち上がろうとした時、彼が目を覚ました。

「うーん……、って、うわあっ!」

彼は半目の状態で少しの間ぼんやりとした表情をしていたが、横に膝をついていた私に視線を向けると目を見開き、飛び上がるように体を起こした。

そのまま後ずさりをしたがゴミの塊に体を打ち付け、声にならない声を上げていた。

「〜〜〜っ!」
「……大丈夫?」

強く打ち付けたらしく、悶絶している彼に声をかける。
打ち付けた背中を両手で押さえながら膝を立てて俯いている彼が頭を上下に振った。

「これ君の水筒とタオルだよね?あっちから勝手に持ってきてしまってすいません」
「あ、いや。こちらこそ迷惑をかけてすいません……」

彼は未だに背中に両手を当ててはいるが、特に私が何かする必要もないだろうと判断し、立ち上がる。
私を見上げるように顔を上げた彼だったが、私が彼に視線を向けると落ち着きなくワタワタとしたあと俯いてしまった。

あまり人付き合いが得意な人間では無いのかもしれない。
彼の自信の無さそうな顔がそう表していた。

「余計なお世話かもしれないですけど、自己管理が出来ないなら此処の掃除なんてしないほうがいいと思う」
「う゛……でも、約束したから……」
「約束?」

その約束を守って清掃をしている彼も彼だが、一体何が目的でこの公園の清掃活動なんてさせているのか。
興味が湧き、何故か正座をしている彼の目の高さに合わせるように体をかがめる。

「ヒャッ!?え、あの……体力トレーニングの一環で……」
「体力トレーニング……。君は何かスポーツでもやっているの?」
「いや、そんなんじゃなくて……。……その、ヒーロー科を受験するから」

両手で顔を覆い目線を彷徨わせながらもボソボソと呟く彼の言葉に納得した。
ヒーロー科は公立私立を問わず筆記と実技を受けることが義務づけられているため、トレーニングをする人は多いと聞く。
確かに、ここに捨てられているゴミは空き缶やペットボトルといった小さいものだけでなく、家電や自動車の部品などの大きいゴミも捨てられているため、それらを持ち上げたりすることで筋肉を使うのは理にかなっているのだろう。

「でも、掃除をトレーニングとして取り入れるなんて、随分斬新な考えをされている人なんだね」

奇特な人もいるものだ、とそんなことを考えていると私の腕時計のアラームが鳴った。
折り返し地点に着く時間に鳴るように設定していたアラームを止め、立ち上がる。

「じゃあ、そろそろ行きますね。トレーニングの邪魔をしてしまってごめんなさい。せっかくヒーロー科を受けるんだから、体を壊さないように頑張って」
「こちらこそすいません……。……あの、ありがとう!」

既に公園を出ようとしていたが、彼の言葉に後ろを振り返る。

その時の彼は自信が無さそうな不安気な様子は全く見られず、希望に満ちているような、そんな表情をしていた。


それ以来、彼とは顔を合わせれば互いに会釈をするほどの仲にはなった。
しかし、彼の名前は未だ知らないままで、季節は既に夏から秋へと変わろうとしていた。




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