体育館の使用時間終了を告げるアナウンスが鳴り、トレーニングルームを後にする。
トレーニングルームの鍵を返すために教員室へ続く廊下を歩いていると、前から爆豪勝己と赤髪の男子生徒が歩いてくるのが見えた。
やはり雄英に受かっていたらしい。
爆豪勝己も私に気付いたのか、顔を合わせた途端に目を吊り上げた。
「俺の視界に入るんじゃねえ死ね」
「出会い頭にそういうこと言うなよ!つか、この女子もお前と緑谷と同じ中学なわけ?」
赤い髪の男子生徒の言葉に、彼らを避けて通り過ぎようとした足が止まる。
「緑谷くんも?」
そう呟くと、爆豪勝己が凄い勢いで振り返った。
目を吊り上げた顔のままの爆豪勝己が詰め寄る。
「テメェ、デクのこと知ってんのか」
お茶子ちゃんも呼んでいたが、デクというのは緑谷くんのあだ名なのだろうか。
塾で爆豪勝己に胸倉を掴まれた時にもデクという言葉を聞いた覚えがあった。
同じ中学だというのなら爆豪勝己と緑谷くんは住んでいるところが近いのかもしれない。
爆豪勝己の言葉に頷く。
「いつ知り合った」
お茶子ちゃん達に海浜公園のことを話そうとしなき緑谷くんだ。
爆豪勝己にどこまで話しているのか分からないため、下手なことは言えなかった。
「入学する前」
「どこでだよ」
矢継ぎ早に質問をしてくる爆豪勝己に溜め息を吐きたくなるのを堪える。
何故そこまで聞かれなくてはならないのか。
「……そこまで言う必要ある?」
「あ?答えらんねぇのかよ」
「緑谷くんも関わっているのに彼がいないところで彼の話はできない」
「ッ、無個性同士で傷の舐め合いでもしてるつもりか!?キメエんだよ!!」
怒鳴り散らし、今にも殴りかかりそうな爆豪勝己の腕を赤髪の男子生徒が掴んだ。
「爆豪やめろって!別に緑谷は無個性じゃねえし、あと女に手を上げるなよ!」
「チッ、うっせぇカス!」
「あ!爆豪!!えっと、じゃあな!」
赤髪の男子生徒の言葉に爆豪勝己は舌打ちをして去っていき、その後を赤髪の男子生徒も追っていき、廊下に立っているのは私だけとなった。
緑谷は無個性じゃない、という赤髪の男子生徒の言葉が頭の中で繰り返される。
緑谷くんは自分で無個性だと言っていたし、彼をあだ名で呼ぶ爆豪勝己も無個性だと言っているが、どういうことなのか。
緑谷くん本人に確認することが一番確実ではあるが、無個性の人に個性の事を尋ねるのがどれだけ酷なことなのか私が知らないはずはない。
それに、あの海浜公園での彼が色々な気持ちの中で話してくれたあの言葉を信用していないことになってしまう。
友人として、同じ無個性として。
私は、緑谷くんの言葉を信じよう。
最終下校10分前のチャイムが鳴り、早足で教員室へと向かう。
雄英体育祭は、もうすぐそこまで迫っていた。
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