明日は明日の風がふく(旧) | ナノ
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入学式も終わり、それぞれの教室へと案内される。
座席と同じように、学籍番号の貼られた机に鞄を置いて座る。

初めて顔を合わせたばかりの人に話しかけるか悩んでいるクラスメイトの姿が見える。
同じ学校出身と思われる人たちは既にグループを作り話していた。

「えっと、塚内さん……だよね?」

隣の席の女子生徒に声をかけられ頷く。

「塚内さん生徒代表の挨拶をするってことは試験結果トップだったってこと?」
「試験順位は分からないけど……特待生だからってことじゃないでしょうか」

「え!!塚内さん特待生なの!?」

その女子生徒が大きな声で驚いたために、周りからの視線が私達に集中した。

「塚内特待生なの!?すげーじゃん!」
「ね!すごいすごい!授業とか分からないところあったら教えてね!」
「塚内さんよろしくねー」

私の席の周りの人達が一斉に話しかけてきたために、適当な言葉を返しておく。

中学時代にも似たようなことがあったな、と既視感を覚えた。


「入学おめでとう。C組の担任になる石山堅です。3年間よろしく」

教室に入り教卓ですぐに挨拶を済ませた石山先生は、面接試験で根津校長と共に面接官をやっていたプロヒーローのセメントスだった。
自身の簡単な挨拶を済ませた石山先生は教員用の椅子に座ってしまい、それで終わりなのか、と生徒同士が顔を見合わせていた。

「先生、何か連絡することって無いんですか……?」
「さっき入学式で他の先生が明日から学科に分けてオリエンテーションをやるって言っていたからその時でいいよ。何か自己紹介とかでもしたらいいんじゃない?」

あまりのゆるさに、質問をした生徒が困ったような顔をしていた。
自由な校風なだけあって、生徒だけでなく講師もどこか自由なところがあるらしい。

「じゃあ、自己紹介でもする?出席番号1番の人からでいい?」

誰かがそう言うと、1番窓側に座っている男子生徒が立ち上がった。


個性ありきの社会であるためか、自己紹介で最も重要視されるものはどんな個性を持っているかということにある。
普通科の生徒はヒーロー科入試の滑り止めで受かっている人もいるためか、珍しい個性を持つ人もいた。

特に、最初の方で自己紹介をしていた心操という男子生徒の個性は洗脳というものらしい。
彼曰く、その気が無ければ洗脳することはないと言っていたが、お調子者そうな男子生徒が彼のことを冷やかしていた。
ヒーロー科の入試がどういうものなのか知らないが、彼のような個性は初見に限る可能性はあれど、対敵用としても災害時にも有用なものではないのだろうか。

そんなことを考えていると私の前の席の人が立ちあがり、自己紹介を始めた。

この自己紹介をする直前から自己紹介直後の時間が、学校生活において私が最も苦手とする時間だった。
周囲のどんな個性を持っているのかという期待の込められた目に、侮蔑の色が込められていく瞬間を私は何度も見てきている。

誰も期待してほしいなんて思っていないのに、とそんなことを思いながら毎年自己紹介をしていたものだった。

前の人が座ったのを見て、立ち上がる。

「塚内赤音です。個性はありませんがよろしくお願いします」
「え、個性無いって無個性ってこと?」
「そうです」
「へぇー……珍しいね」

さすがに石山先生がいるからなのか、それ以上その男子生徒が話すことは無かったが確かにその顔には嘲笑を浮かべていた。
表立って発言する者はいないが、表情や雰囲気から隠し切れていない侮蔑の感情を周囲から感じながら椅子に座る。

後ろの席の人が紹介しているにも関わらず、生徒の視線は私に向けられていた。


「終わった?じゃあそろそろ終了時間だし、帰ってもいいよ」

そう言うと、石山先生は教室を出て行った。
入学式で特に出した物もしまう物もないため、早く帰宅しようと立ち上がると、背後から笑い声が聞こえた。

「無個性とかマジでいたんだな。初めて見たわ」

そう言ったのは、自己紹介のときに無個性かと聞いてきた男子生徒だった。
その男子生徒の言葉を皮切りに、ヒソヒソと呟く声が聞こえてきた。

「まぁ所詮は普通科だしね。無個性もいるか」
「無個性でも特待生になれるんだ」
「今までどうやって生きてきたんだろうね」
「無個性だから特待生になるしかなかったんじゃないの?」
「何それウケるわ」

先ほど話しかけてきた女子生徒も、前後の人とコソコソと話している。

トップクラスの高校とはいえ中学を卒業したばかりならこんなものか。
教室を出て行こうとする私に、おーい、と男子生徒が声をかけてきた。

「なんか言うことある?ナードちゃん」

ナードちゃん、という言葉を聞くのは1年ぶりな気がする。
爆豪勝己もそんなことを言っていた。
もしかしたら、彼は爆豪勝己と同じような人種なのかもしれない。

「別にないよ。それじゃあ」

爆豪勝己のときと同じように声をかけて、教室を出た。


特待生は必要以上に余計な問題を起こさないように、と入学時の各書類の規約に書いてあった。
中学の時のクラスと大して変わらない今のクラスなら、3年間何事も無く終わるだろう。




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