「次の方、どうぞお入りください」
面接室の前に控えていた係員に促され、私の前に座っていた人が入室していった。
普通科と言えども倍率は高く、受験者も多くいるため、面接室は5つに別れ行われていた。
午前の筆記試験ではいつも以上の力を出すことが出来たと思う。
しかし、生徒の自主性を重んじる雄英では筆記試験よりも受験生の人となりを見ることが出来る面接試験のほうが重要視されていた。
緊張を少しでもほぐすために息を深く吐き、父からのお守りと、母からの手紙の入ったブレザーのポケットにそっと手を触れる。
出張がてらって言ってたけど本当はそれのために行ったのよ、と後で母がこっそり教えてくれた父からのお守りは、遠い地方の学問の神様を奉っていることで有名な神社のものだった。
母から貰った手紙は今日のお弁当と一緒に包まれていたもので、誰よりも頑張っていた赤音なら絶対に大丈夫!と書かれていた。
兄からは今朝と昼食時間にメッセージが送られていた。その内容が父から送られたものとそっくりで、思い出して少し笑ってしまった。
家族のことを思い出していると不思議と緊張していた気持ちがほぐれていくのを感じる。
この人達が私の家族になってくれて良かった。
「次の方、どうぞお入りください」
「はい」
係員に促され立ち上がり、面接室のドアを叩いた。
「塚内赤音さんだね?まずは筆記試験お疲れさま。さて、面接試験を初めようか!」
面接管はこの雄英の根津校長とプロヒーローのセメントスの2人だった。
塾の危険リストに入っていた教員ではなくて内心安堵するも、油断は出来ない。
志望動機、得意な科目、中学で頑張ったことなど基本的なものから、好きな動物や和菓子など果たして受験面接に関係あるのかといった質問が出されたが、対策通り答える。
「では、あなたのご両親の個性は何ですか?」
セメントスが質問をする。
これもおそらく聞かれるだろうと対策をしてきた質問だ。
塚内の父と母の個性を答える。
「おや、君の両親の個性は炎と氷じゃないのかい?」
根津校長の言葉に、言葉を失った。
「特待生は雄英の顔でもあるからね。品行はどうか、親族に敵関係者はいないか、それら含めて身辺調査をすることになっているんだ」
根津校長の言葉に動悸を感じながらも何とか相槌を打つ。
「あぁ、君の生い立ちで合否は判断しないから安心するといい。さて、面接を続けようか」
それからの面接は和やかに行われていたのが一転し、まるで尋問のように行われた。
無個性ということを突き詰めて聞かれていき、精神が消耗していくのを感じた。
「これで最後の質問だ」
根津校長がそう言い、ようやくかと心の底から思った。
まるで何時間も話していたような気持ちになっていたが、実際には20分も経っていないのだろう。
姿勢を直し、まっすぐに根津校長とセメントスを見る。
「雄英の特待生という立場は重く、それは普通科であってもあらゆる責任が伴う。無個性である君にとって此処での生活は過酷なものとなるかもしれない。それでも、君はこの雄英の特待生を目指すのかい?」
「私は……」
そっとブレザーのポケットに手を触れる。
私がこの学校の特待生になりたいと思った目的はひとつだけだ。
赤の他人であった私を、家族として愛してくれた両親と兄のため。
無個性の私にかけられた世間からの心無い言葉から私を守ってくれた両親のために。
それだけしかないのかもしれない。
でもその気持ちだけがあれば私は何でもできる気がしていた。
「……私は個性を持たない人間ですが、それでも私を認めてくれた方達の気持ちを無駄にしたくはありません。そのために、私は特待生として3年間を過ごし、学んだことをその方達や社会のために貢献していきたいと考えています」
「……うん。じゃあこれで面接は終了だ。お疲れ様」
礼をして面接室を出る。
出た瞬間に一気に疲れが出てきたように感じた。
やりきったという気持ちで胸がいっぱいではあるが、面接の反省などやらなくてはいけないことはまだまだある。
気持ちを引き締めなおして、待機室へと戻った。
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