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祿と玉響+/狐話

平安時代の天狗と成長した盲目少女のお話。
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「ゆら、」
「はい」
「ゆら」
「なんでしょう」
「玉響」
「………祿?」


膝の上に寝転ぶ、祿の質の良い髪を撫でていましたら(なんて、他の髪なんて知らないので質の程など、わからないのですが)不意にろくが不安気にわたくしの名を呼ぶものですから、髪を撫でるのを止めてわたくしも名を呼べば、膝の上から重さが無くなり、祿が起き上がったのが分かりました。


「昔の夢をみた」
「フフ、昔とは…わたくしの存在するより昔の事で?」
「ちがう、」
「あら」
「玉響を拾った時の事だ」
「………」
「フフ、懐かしいですねぇ」
「………ゆらは、」
「えぇ」
「よく笑うようになった」
「笑えていますか?」
「あぁ、笑えているよ」


目の前に居る祿に触れようと手をのばせば、触れるよりも早く、祿の手がわたくしの手を優しく取り、そのまま自身の頬へと寄せました


「祿の、おかげです」
「………」


もう一方の手も祿に触れようとのばせば、嫌がることなく受け入れてくれる、祿。
祿の表情を読み取ろうと両の手で頬や瞼、唇をなぞれば、祿が少し口角を上げて微笑んでいるのがわかると、どうにもこそばゆい気持ちになります。


「祿も、笑ってる」
「ふふ、あぁ、そうだな」


目の見えぬわたくしにとって、表情など解るはずもなく
拾われた私は、祿にこうして"表情"を教えてもらいました。(と、いってもわたくしには上手く出来ているかなど全くわからないのですが)


「……なにか、ありましたか?」
「………本当に、目が見えない癖に敏感だな」


ふいに、祿を包む気配が何か哀しいモノへと変わり、頬から両の手を離せば、そのまま祿の手がわたくしの手を優しく包みました。
何かあったのかと聞けば、声色から(何に呆れているのかはわかりませんが)呆れたように息を吐き、祿は呟きます。


「…なぜ呆れるのですか」
「いや、呆れているんではないよ…感心しているんだ」
「…………感心…ですか…」


はて、どこに感心する部分などあったのでしょうか
訳がわからず、眉を潜めてみると、前にいるろくが突然笑いだしました。


「…………」
「ふふ、ははは」
「……そんなに変な顔をしたのでしょうか」
「いや、困っているなぁと思って」


顔に出ていたと言うことでしょうか
これは…喜ぶべきなのか、怒るべきなのか…
戸惑っていると、さらに祿は笑います。


「…………」
「……ゆら?すまない、そう怒るな」
「怒ってなどいません」
「面白くなさそうな顔をしているよ」
「………わたくしがろく以外の妖怪と話している時の、祿の様な顔ですか?」
「………ゆら、いつから目が見えるようになった」
「妖怪さんがよく言っております」
「………」
「……わたくしはいま、そのような顔を?」
「……あぁ、多分、そんな顔だ」
「…フフ、そうですか」


拗ねた様に言う祿に、つい頬が緩んでしまいましたら、手を包んでいた祿の手がわたくしの頬へと触れました。
そのままわたくしの真似をするように頬から瞼…唇を優しくなぞり、耳へと触れたと思えば、今度は首へ


「温かいな」
「誰かの優しさで、生きておりますので」


わたくしの手を包んでいた祿の手がなくなった片手を、首に触れる祿の手に重ねれば、手の熱がわたくしに伝わってきて、「祿も温かいですよ」と呟けば、祿が笑っているように感じました。


「……あ、わたくしの質問に答えてもらってません」
「…………質問?…あぁ、」
「…何か、あったのですか?」
「ゆらを拾った時の夢を見たと、」
「はい」
「………あの時は、お前の名のように、今この時など一瞬で過ぎると思っていたが」
「はい」
「……………」
「……祿?」


そこまで言って、黙ってしまった祿。
首にあった手は離され、今度は頭を撫で、髪に指を絡めているのが分かりました。


「………("玉響"などと、付けなければよかったかな)」
「…なんで、すか」
「いや、ゆらが死んだら私はどうするかと、思ってな」
「…………わたくしが死んだら、ですか」
「ああ」


撫でる手は止まらず、何を言うかと思えば、わたくしの事など


「どうも、ありません」
「…?」
「"玉響"の、名の通り」
「……」
「"今"など、祿にとってはほんの一瞬の出来事」
「…ゆら、」
「すぐに忘れます」


わたくしを撫でる手が、止まる。
何かを考えているのか、前からは「うーん」という唸り声


「……ゆら、」
「はい?」
「人魚の肉はうまいらしい」
「祿は、わたくしをどれだけこの世に引き留めるおつもりですか」
「………言ってみただけだよ」
「フフ、すぐに全てが過去になりますよ」
「すこし、それが惜しくなった」
「気の迷いです」


そう、思ってくださるのは至極喜ばしい事ではありますが、
祿にとっては、本当に今この一瞬の考えなど気の迷いである他になく


「………なんだ?」


祿の、頭があるだろう位置にふわふわと手を動かせば、祿の髪に当たり、そのままわたくしがされたように髪に触れると、祿はすり寄る様にわたくしの手に頭を預けてきました。


「祿の、その考えは」
「?」
「わたくしを、あの時に見放してさえいれば浮かばなかった事でしょう」
「……それは、お前が存在しないからな」
「いずれ、わたくしは間違いなく祿よりも先に死にます」
「…………」
「その気の迷いも、貴方の一つの過去の過ち」
「…ゆら、」
「わたくしなどという、拾い物をするのがいけないのです」
「後悔はしていない」
「……そう言って頂けると、光栄の極みです」
「………」


人ではない祿にとって、わたくしなどと一緒にいる時間など、ほんの一瞬でも


「わたくしは、」
「なんだ?」


いずれは、確実に忘れられるであろうこの時間も、この言の葉も




「貴方に拾われて、幸せです」




私にとっては、一生の時間なのです。(頂いた時間の、長い事長い事)




「ハハ、死にたいと言っていた小娘が、」
「わたくしは"玉響"、あの"わたし"はあの時に死にました」
「フ、ハハッ」
「…………何が、おかしいのですか」
「戯言だな、」
「えぇ、戯言です」
「……私の話も、戯言か」
「戯言です」


でもどうせなら、
祿のこの一瞬も、祿の一生になればいいなどと、思ってしまうのです(本当に、なんて戯言)



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だれか文字の書き方おしえて←

成長玉響だお^^
全盲の子が表情読み取るために顔を優しくなぞる動作を書きたかっただけなんですあうあうあうあ


@1117


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