ぐるぐると忙しく巡る思考は和臣の忍び笑いによって遮断された。

「あんた……俺様のこと謀ったでしょ」

不機嫌に睨みつけても、和臣はどこ吹く風。
殺しきれない笑いを懸命に堪えながらようやく文鎮に筆を置いた。

「謀った等、人聞きの悪い。

……しかしまぁ、嘘ではないとは言い切れんな。
女相手には百戦錬磨かもしれないが、衆道はまだまだ。
始めは痛いし、腰は怠い。
何時も次からは俺が上になろうかと思うくらいだ」

その言葉に、己の貞操は常に狙われているのかと危機を感じ冷や汗をが背中を伝う。

「何だよ、結局良いとこ無しじゃん。
俺様の問いにも答えになってないし」

苦し紛れに言い返すと、和臣は態とらしくため息を吐いて見せた。

「存外疎いな、お前は」

それじゃあ、と佐助に向き直り腕を組む。


「……お前の衆道が上達したら教えてやっても良いぞ」

そう言い捨てて瞳目する佐助から視線を逸らした。



「下手なんじゃなかったっけ?」

その様子に普段の調子が戻ってきた佐助がするりと近寄ってくると、言葉が過ぎたと舌打ちをする。

「俺に被虐趣味は無いからな、上達するまで付き合ってやる」

「要は、俺様とだったら痛いのも我慢するって事でしょ」

「違う、被虐趣味は無いと言っただろう………触るな」

着物の合わせから差し込まれる手をぴしゃりと叩くが、"いて"と呟いただけで止めようとはしない。

「ほら、上達しなきゃだろ?」

ただ、にんまりと口角を上げる。
今回ばかりは煽った自分が悪いな、と観念したように身を任せれば座卓の影に二人が消えた。






「そう言えば、上達しなかったらどうすんの」

「そのような心配は無用。
さすれば俺が上になるだけだ」

「……………」




恋よ、愛よ、強かであれ。

一筋縄ではいかない、その位が面白い。






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