週末を挟んだ月曜日。俺は朝から妙にそわそわとしていた。理由は簡単、今日の最後の授業は世界史だからだ。
あんな落書きに返事。またそれに返事を返すなんて、確率は低いだろうと思った。それでも、なんとなく信じてみたかったのだ。


「よーっす柳!数学のノート貸してくれー!」

颯爽と現れた赤髪に、俺は特に驚きもせずにまたか、と言った顔でじろりと目配せする。いつも遠いB組からノートを借りに来る男、丸井ブン太だ。丸井はいつものようにガムを噛みながら、にこにこと人懐こい笑みを浮かべている。

「ああ、丸井か」
「おっすー。なんだよ、そのまたかよみてえな顔」
「みたいじゃない、実際そう思っている」

はあ、とため息をつきながらノートを手渡す。丸井はありがとよ、と笑ったあと、不思議そうに俺の手元を凝視していた。

「なー柳、それなに?」
「『人間失格』だ。お前でも聞いたことがあるだろう」

「あー…なんとなく?」

やっぱ知らねーわ、とけたけた笑う丸井に、俺も俺でなんとなく残念な気持ちになる。この本は、有名なはずなのに。そのあとは丸井と別れ、自分は次の授業の予習。最後の7限はもう間近まで迫っている。



▽△▽



6限が終わったあと、なんとなく落ち着かなくなっていつもより3分ほど早めに教室を出た。こんななんでもないことに期待しているなんて、と俺は思う。不思議だ。返事がある確証なんてないのに。

かたん、と椅子を鳴らして席に着く。一呼吸を置いてちらり、と机の端を見た。無意識に、緊張していた。



"付け足されるとは思いませんでした"


端麗な文字が踊る。俺が書いた文字に矢印を引っ張って書かれた小さめな文字。驚いた。まさか本当に返事があるなんて。勝手に付け足されて怒っているのだとも取れるような文面。しかし、その時の俺にそんな考えはなかった。ただひたすらに返事があったことに驚き、たしかに嬉しかったのだ。

フッと笑みがこぼれる。いつのまにか隣に座っていた酒井に変な顔をされたが、この際見なかったことにしよう。俺は授業が始まる前にまた、返事を宛てた。授業中もなんとなく気になって、何度も机の端に目を落とした。3日後が、楽しみだ。


"すまない。気になったものだから"


その日から、俺と顔も知らない『人間失格』の人との奇妙なやり取りが始まる。





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