"するかも決められていません。ちがう世界もいいかななんて思ったりもします"


"夏休みに入ることを忘れていました。夏休みは楽しかったですか?"

"お休みですか?大丈夫ですか?"

"しつこくしてすみま "

"迷惑でしたね、ごめんなさい"



いつもはひとことだけだったのに、あのときの返事と、何度も消したような跡、謝罪、他にもたくさんの見知った文字がその古ぼけた机には残されていた。最後のものは、筆圧から見て一番最近のようだった。綺麗な文字しか見たことがなかったのに、ところどころこの文字は荒れている。きっと自分を心配してくれていたのだとわかる。これを見て、ひどく後悔した。己の未熟さで、彼女まで傷つけてしまった。俺はチャイムまでの時間なんて計算せずにシャーペンを走らせた。






「すみません、遅れました。」

普段の俺らしからぬ行為にクラスがざわめく。担任までもが狼狽している。いまはチャイムが鳴り終わり授業が進められたまさにその時。この俺が、授業に遅れるなんていままであっただろうか?急いで帰ってきたために息が若干乱れている。まったくらしくない。だがあの返事を書けたということに、ただならぬ達成感のような高揚感を感じていたのも事実だった。




「よーっす柳!聞いたぜ、授業遅れたんだって?」
昼休みになって後ろから受けた衝撃。十中八九丸井あたりがいじりにくると思っていたが当たったようだ。ぷぷ、とあからさまに笑われる。


「明日槍でも降んじゃねえか?」
「それはないだろう、現実的に考えろ」
一蹴すると丸井は唇を尖らせて昼食のパンを齧る。
ここは廊下の真ん中だ、せめて教室内で食べろと諭そうとしたら、視界の端にこれまた見知った女生徒が見えた。

苗字だ。相変わらず松本紗江と一緒にいるらしい。彼女の方はいつも通り派手な装いで、苗字に話しかけている。対する苗字は返事こそしているが、どこか上の空に見える。ときどき視界が揺れて、何か思い詰めているようだった。
少ないながら何の気兼ねなく話せる女生徒だ。何か悩み事だろうか。

俺の目線に気づいたのか、パンを齧っていた丸井が苗字のほうを一瞥する。


「あー松本じゃん」
「知っているのか?」
「おー、たまにお菓子くれんだよ。案外いいやつだよな」

なるほど、テニス部ないでも彼女たちを知る人物は少なくないということか。もっとも丸井は、苗字のことは知らないようだが。

「横の子は知らねえなー、柳友達?」

ん?と首を傾げながら聞かれて、ああ、と言いそうになったがすんでのところで辞めた。なんとなく、彼女と顔見知りなことを知られたくないと思ったのだ。適当に丸井を受け流して再度見ると、もう2人はいなくなっていた。この感覚は以前にもあった。どこだったか、俺としたことがあまり思い出せない。



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