俺たちの夏が終わった。
ジワジワと蝉の鳴き声を背に、教室に足を踏み入れる。

全国大会決勝戦、我ら立海は敗れたのだ。王者ではなくなった。あの時の気持ちは今後どうやっても表現できないと俺は思う。灼きつける日差しが、はためくレギュラージャージが、仲間の背中が、目に焼きついて仕方ない。全員が全員やりきった、いい試合だったと、思う。

あの出来事からまだ2週間も経っていないなぞ信じられるだろうか。夏休みが終わり学校が始まる。もちろん試合の結果は全生徒に知れ渡っている。同情や憐れみの目なんかも予測できていたし慣れていた。授業も滞りなく進められ、あっという間に10月に入ろうかという頃。もちろん世界史はあったが、やり取りをする気にはなれなかった。そういうところが己の未熟さだと思う。

あの机に座ってまず確認していた作業が、夏休み明け最初の授業では出来なかった。教科書とノートで隠して見えないようにして、気づかないふりをした。返事はしようと思った。何度も何度も。だが最初に躊躇してしまってからはずるずるとこのザマだ。なんと情けない。あれだけ自分の信念に沿って生きてきたというのに、マスターなんてとんでもないなと自嘲した。

「やあ、蓮二」

世界史が終わり教室を出ると、目の前に見知った友の顔。

「精市か。どうかしたか?」

「ふふ、蓮二が柄にもなく落ち込んでると思ってね」


この幼馴染は強い。自身に起こったことにも立ち向かい、立ち上がり、みんなを引っ張ってきた部長だ。王の器だな、とほとほと感心する。
いつものにこやかな顔で話しかけられては、こちらもどうしようもない。俺は全く立ち直れていないのかもしれないな。


「文通、どうなの?」

すっと細められた目、何もかもお見通しのようだ。包み隠さず現状を話せば、そんなことだろうとおもったよ、とまた笑った。


「相手は蓮二だって知らないわけでしょ?こんな放置してたら、怒ってもう文通してくれないかもね」


確かに、と思った。彼女は俺だと知る由もないし、決勝戦に負けたなんてつゆ知らずのはずだ。これだけ放置していては、もう今さら返事をしても返してくれないかもしれないな。そう考えると心臓の奥の方からどろっとした感情が湧いてきた。この不可思議な感情は、あまり経験したことがない。


「蓮二がいいならそれでいいんだけど、きっと寂しがってるんじゃない?」

そう言い残して幼馴染はひらりと踵を返した。
多目的B室の入り口で立ち尽くす。考えれば考えるほど、これでいいという気持ちにはならなかった。あと7分35秒で次のチャイムがなる。次の準備をきっちり済ませるにはもう教室に戻らなくてはならない。そう思いながら、俺もまた踵を返した。



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