今日の体育は、初のテニスでした。疲れますね。


ある日のあの机にはそのように書かれていた。…ふむ、そういえば先日から体育は男女ともにテニスになったな。俺のクラスはまだやっていないのだが。こんな些細な情報でも、彼女を特定することは容易だった。やろうと思えば自分の培ったモノで明日にでも彼女を見つけ出すことが出来る。しかし俺はそうしなかった。気になる気持ちはあるが、なんとなくこのやりとりが好きなのだ。この、週に2回できるか否かのやりとりがもどかしく、それがまた楽しい。フッ、と笑った。彼女は俺のことを一切知らないと思う。もちろん、この俺がテニス部であることも、予想してはいないのだろう。


テニスは、楽しいぞ。

といつもの如く返事を返す。書き終えたところで酒井が話しかけてきた。

「柳、お前最近ひとりで笑ってんな」
「ほう?」
「気持ち悪いぞ」
「それは心外だな。」
「彼女か?」
「そんなわけがないだろう」

軽口を叩いていると教師が次の問題に脈略なく酒井を指してくる。くそー、お前のせいだぞ。と小さく聞こえたがそれには当然だと返しておいた。
世界史が終わった後、教室へ戻るとちょうど見えたグラウンドでは自分と同じ学年の者達がテニスコートを片付けているところだった。先ほどのやりとりを思い出してなんとなしに眺めてみる。

すると、木陰で腕を組んでいるチームメイト、精市がいた。ほう、つまりあれはC組ということか。一際白い奴がぼうっとグラウンドを眺めているかと思いきや、その足である女生徒の元へ向かうのが見えた。どうやらその女生徒は持ちきれない量のネットを持っていたようで、手伝いに行ったらしかった。精市が、めずらしい。興味深くなって観察を開始する。精市が声をかけると、黒髪をふたつに結った女生徒は突然の精市の登場に頬を赤く染めるわけでもなくあ、どうもと言ったように淡々に対応していた。…ふむ、これも珍しい。自分たちで言うのも些かおかしいが、俺達テニス部のレギュラーは人気がある。精市は特に。同じクラスと言えど、あいつに話しかけられたなら普通の女子は頬を染め、媚びたような眼差しで見つめるのが大半なのだ。その、予想に反する行動をした彼女に興味がわいた。すこし、自分たちの自意識過剰さに恥ずかしくなる。

どうやら俺に、『人間失格』の彼女の他にもう1人、興味を持たざるを得ない人物が現れたようだ。



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