「だからさあ、なんで」
「ねえ、」
「名前、名前」

「ごめん、ね」

「なんで謝るの。もっと怒ってよ。」

「わたし、いざやが思ってるよりも強い女じゃないや」



何もかも見透かされた気分だった。きっと名前はただ怒るだけで、いつもみたいに強い言葉で罵るだけだと思っていたことを、見透かされていた。
こんなときだってごめんの一言さえ言えやしない。


何となく、ただ何となく浮気をした。
まさがバレるなんて、そんなヘマするわけないなんて自分を過信していた。だって、たまたまそのへんで声かけた女が最愛の彼女の友達で、この女とヤるのなんて二回目で、この女が俺のこと全部彼女に言いふらしてたなんて、考えるわけがない。考えるわけ無かったんだ。
最悪の結果だ。彼女がいつでもただ怒って、怒って怒って怒って俺を罵倒するだけだなんてどうして思ってしまったのか。何となくでやった行為で、彼女との全てがなくなる。
軽くあしらって、キスをして、それで許してもらえるなんて心のどこかで思っていた。今だって、バレた時はそんなに焦ってなんかいなかった。なのに、なのに。あんまりにも、目の前の彼女が弱々しく笑うから。眉毛をめいっぱい下げて、大きな目に透明の水の膜を張って、零さないようにと頑張って。
取り返しのつかないことをした、と改めて確認させられた。長い間俺に付き合ってくれていたんだから、こんなことがあったって名前はずっとそばにいてくれる。そんな馬鹿な理屈が通るわけがない。人間は愛してる。これからもずっと。それ以上に、彼女が一番愛おしい。いくら頭が良くても、こんなことにも気づけなかった。気づくのが遅かったんだ。汚いことばっかりしてきたこの手では、もはや彼女を抱きしめることさえできない。
最愛の彼女は、俺が悪いっていうのにごめんごめんと謝るばかりだった。


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