「閏年ってさあ、どうして1日なんだろうね」

ふと、思い立ったことを言ってみる。隣にいるのは昔からの友達の忍足謙也という男。幼少期に大阪で仲良くなり、私が転校してまた6年ぶりにこの地に戻ってきたときに再会したというまさに合縁奇縁なのである。まあ案の定、何言ってんだこいつみたいな顔をされたのだけど。


「は?何言うてんねんおまえ」
「いやほらさ、4年に一度24時間が生まれるなら1年に6時間分割り振れるわけでしょ?」
「……ああ、せやな」

「それなら1年に3日26時間の日があるとか、1日30時間の日があるとかしたら、おもしろいじゃん」
「お、おー」
「なに?謙也ちゃんと聞いてんの?」


から返事な謙也をじろり、と見つめる。こいつ馬鹿だから私が言ったこと理解出来なかったのかよ。と、思ったがすぐに聞いとるがなと逆毛を立てられた。イケメンなのにすぐ怒り出すのはこいつの沸点が低いのか大阪独特のそういうノリなのか、よくわからん。

「アホなこと考えるやっちゃなって思うとっただけや」
「うっざ」
「あー…まあでも、1日が24時間じゃないってのはちょっとロマンやな」
「でしょー」

ずずず、といちごオレを飲み進める。1日が30時間あったら、学校の時間が伸びるのかなあと口にすると、うげっというなんとも汚い声が降ってきた。「それは勘弁やな」という言葉に「でも謙也家にいたってイグアナしかみないじゃん」と返すとアホちゃうかと一蹴される。ええひどい。

「4年に一回だから特別感があるっちゅーことや」
「ふーん」
「毎年そないなことあったら特別感ないやろ」
「確かにそうだわ」
「せやろ?閏年はこのままでいいんやな」

確かに1年に3回26時間やら一回30時間があったらもう慣れるわな。と謙也のいうことにひとり納得する。なんだこいつ、意外に頭いいなという目で見つめるとアホと言われた。アホちゃうわ。それにしてもふたり仲良く屋上でいちごオレをすする。今日は閏日のはずなのにまるで特別感がないということもなかなかではないか。

「謙也あー」
「おん?」
「閏日だから面白いことやって」
「アホちゃうか」
「それ何回目だよ死ねよ」

明らかに見下したような顔をする謙也のお尻をげしっと蹴りあげる。いちごオレはもう飲み終わってしまった。「閏日を特別な日にしてよ」という私の無茶ぶりにはちょっと真剣に悩んでくれるあたりなんか優しい。大阪の血が騒ぐってやつか。別に大喜利じゃないけど。

「……特に思いつかれへんな」
「つまんな」
「うっさいわ」

あー、もうすぐ昼休みも終わってしまう。今日に限って7限まであるんだから死にたい。時間のことなんて忘れてるのかぼーっとしながらいちごオレをすする謙也に、なんとなく「このままサボろ」と提案してみた。

「はあ?俺授業はサボらんタチやねん」
「今更優等生アピールすんなよ」
「……しゃーないからサボってやるわ!」
「どっちだよ」

はは、と笑いながら屋上のコンクリートに寝転んで空を見上げる。パンツ見えそうやでという声には無視をする。青い空を見ながら、ほんとに今日閏日かよと改めて思った。特に変わり映えしないいつもの光景。はーつまんな。サボってるだけ変わり映えしないってのはちょっとちがうか。あきらかにだるそうな私を見て、謙也が大きくため息をついた。


「なあ名前」
「なに」
「学校抜け出そうや」
「は?荷物は」
「どうせ大したもん入ってないやろ」


あの自称優等生がそんなことを抜かすとは。驚いた。突然の抜け出す発言にちょっとだけ考える。ここにいてもつまんないし、うーんそれがいいかな。ちら、と謙也を見るとにやりとあくどい顔をしていたので私もそれに釣られてにやりと笑い返す。差し出された手を握って、ふたりで屋上をふらりと出ていった。特に変わり映えのしない1日は、こいつのおかげでちょっと特別な日になりそうだった。


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