ああ、気持ち悪い。
腹の上と口では言いたくないようなそこらが自分のものなのかそうでないのかも解らなくなってしまった精子でどろどろしている。何度も何度も馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返されたせいで腰はたたないし声も掠れてしまって、なにより周到にも筋弛緩剤を打たれたらしい体中が痛くて怠くて指一本動かすのだって億劫だ。下半身を丸出しにしたままこの汚水臭い路地裏のコンクリートの上で粗雑に転がったまま朝を迎えるのかと思うと本当に嫌になるが、潰されてしまった声帯と携帯以外に連絡手段を持たない俺にはもうどうすることもできなかった。くそ。あの携帯まだ買ったばかりだったんだぞ。
晒された皮膚を夜風が撫でてぞくりと背中が粟立つ。深夜といえどさすがは都会というだけあって足音は疎らに聞こえる、がこんな何も無い路地裏をわざわざ覗く人がいるわけもなく存外に冷たい春先の夜風は無遠慮に俺の体温を奪っていった。
腕に力を入れて何とか上体だけでも起こそうと踏ん張ってみたが何度試してもこくりこくりと途中で肘が折れ終いには肩で息をつかなければままならないという始末だ。
こつり、と伏したコンクリートを通して不意に硬質な革靴の音が聞こえた。酷く緩慢なリズムで鳴る靴音は確かにこの路地裏に向かって来ていた。ああ恥態を晒したまま朝を迎えなくてすむのか。それは何よりだ。しかし安堵に胸を撫で下ろす半面で心中ざわつく部分が確かにあった。素敵で無敵な情報屋のこんな姿を見られてしまうだなんて、強姦されて喘いでましたなんて言っているのと大差ないこんな姿を晒すなんて!ひやりと無慈悲なコンクリートの上に力の入らない拳を握ったが足音は既に目前で止まっている。普段であれば冷静に算段をたたき出してくれる俺の脳みそは無理矢理なセックスのせいでスパークしてしまったらしい。ああ、くそ。
「おい、」
低い声が真っ暗い路地裏に浸みる。靴音から予想が付いたがやはり足音の主は男だった。すっ、と気配が動いてその視線が俺に突き刺さるのが解る。
ああ、見ないでくれよ。
これは完全な計算違いだった。
圧倒的な俺のミスだ。
認めるから頼むから俺を見ないでほしい。
無意味な懇願は声にもならずざらついた空気として口から吐き出されるばかりだ。俺の苦悩など露ほどにも知らない足音は俺のすぐ傍までやってきて、不様に転がる俺の顔を見下ろして来た。
「、手前か。」
声は微かに震えていた。みしりと空気が軋んだのは多分気のせいではないのだろう。その台詞にいくつの意味があるのかははかりかねたが俺を見下ろす双眸はしっかりとした嫌悪を見せていて、暗闇のくせにそんなところまで確かに解るなんてまさに目は口ほどにものを言うものだななんて見当違いなことを思った。眼前にある彼の脚の向こうで、俺が殺した四つの目玉がざまあみろと笑っている。黙れ。
(見るな。俺は汚れているよシズちゃん。)