「しーずーちゃんっ」
午後の授業をふけて屋上で悠々と喫煙しくさるシズちゃんの背中にダイブする。結構力いっぱい飛び込んだのに流石はシズちゃんでたいして痛くもなさそうな顔で、うお、と間抜けな声をあげた。
「いけないんだ。煙草。」
「そういうことはそのポケットん中のナイフどうにかしてから言え。」
あは、とわざとらしく笑って見せると軽く頭をこづかれた。そのくせ目元は優しく緩んでいたから、幸せが電流みたいに体中を駆け巡って鼻の奥が少しだけ痺れる。
天気は良いといえど一月半ばの上空に吹きすさぶ北風は晒された皮膚に痛く、頬や耳が引きちぎれそうだ。指先が死んだみたいに冷たいから(死んだことはないけど。)、シズちゃんもなのかなあと漠然かつ唐突に思い短くなった煙草を挟むその指先に触れた。冷たい。
「ばか、危ねえよ、火。」
シズちゃんの綺麗で男らしい指は些細なタッチだけの俺の指からいとも簡単に擦り抜けてしまう。少しだけ残念に思っていると、煙草を持ち替えたらしい何も持たない右手が俺の指先を掴んだ。
「冷てえなー。」
シズちゃんの横顔が楽しげに笑ってる。青空に向けられた笑顔に何故かこめかみから首筋にかけてがじんじんと熱くなって俺は視線を逸らした。ああ、もう。
「シズちゃん、」
「あぁー?」
「……ちゅう、しよ。」
「…ばーか。」
握られていた手を引き寄せられて俺は力のままに今度はシズちゃんの腕の中にダイブした。煙草を器用に弾いて飛ばした左手が俺の頭を撫でるのがくすぐったい。その手はそのまま耳の裏を伝って首筋を這い、そして顎を捕らえてくいと上を向かせる。
シズちゃんの金髪が太陽に反射して眩しかった。少し細めた視界から色っぽく近付くシズちゃんの顔が見えて、俺はそのまま目を閉じた。
(好き。)