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ゆかリクエスト:赤×水







  太陽に光る金髪があまりに眩しいのでまるでライオンのようだと言えば、自分は乾燥地帯より水の中の方が得意だと笑う。そんな後輩が、確かにいた。



バイバイ・イエロウフィッシュ




  世の中はもうすっかり夏だった。空気はムッと篭って息苦しく、蝉たちはけたたましく鳴いて子孫を残すことに一生懸命だ。道行く人間は皆々苦しそうに眉をひそめながら歩いている。どの店先でも、祭りだ海だと賑やかに夏の宣伝をしていた。
  俺はなるべく、サングラスの中の目つきが険しくならないように注意しながら、練習場へと向かう。
  二年前のこの頃から、俺は何となく海を避けていた。


  どういった経緯で親しくなったかはもう覚えていない。高校時代は、試合会場で何度か顔を合わす程度で対戦したことは一度もなかったし、大学も違うところへ通っていた。けれど俺たちは手をつなぐこともキスをすることも、幾度となく重なり合うことさえもした。俺よりずっと長身の彼が、俺の下で見せた表情も声も高画質かつサラウンドで思い出せるというのに、なぜそんな仲になったかだけはどうしても思い出すことができない。今思えば、どうして彼だったのとか、そういったことを深く考えたこともなかった気がする。彼からも聞いたことがない。しかしともかく、俺にはそんなことをするような、ひとつ歳がしたの後輩がいた。


  身長はすこぶる高かった。決して身長が低いわけではない俺が見上げなければならないほどに、彼の頭は上にあった。体格もそれなりに良くて、ふざけた彼によく抱き上げられた記憶がある。少しだけ世間知らずな節があったが、真面目で練習熱心な努力家で、時折見せる歳下とは思えないような表情や、かと思えばふいに浮かぶ抜けた仕草なんかを、俺は好いていたのだろう。そして特にも気に入っていたのは、すっかり人工的に色の抜かれた、キラキラの金髪だ。

  たったの一度だけだが、一緒に海に行ったことがあった。俺が大学二年、彼が一年の時の夏だ。車の免許をとったのでどこかへいこう、という俺の誘いに彼は海が良いと即答してみせた。その時に見た、海の中に揺らぐ金色が、綺麗で好きだった。


『海!俺海いきてーよ赤羽さん!』


  なるべくラッシュを避けて、ひと気のない海岸を探したのを覚えている。いざ行ってみてその時初めて知ったのだが、彼は驚くほど綺麗に泳ぐのだ。なんでも、アメフトを始める少し前は水泳部にいたのだという。(それを始める前はカナヅチだったというのだからなおさら驚いた。)それにしたって、ずいぶんと人間離れした泳ぎをする。すごいな、と褒めると彼は照れ臭そうに金髪を掻いた。


『俺ね、自慢じゃないけど、アメフト始めるまでやればなんでも1番になれちゃってたのね。』
『楽しくねーってことはなかったけど、嫌なこともあったよ。』
『でもさ、アメフトって、1番とかねーじゃん?どのポジションにも違う強さがあって、全部に敵うなんてぜってー無理だと思うわけよ。でもやっぱり、1番目指したいじゃん。』



『それがおもしれーの。』


  陰の岩場から海へ飛び込んだ彼は、水中を行ったり来たりしながらそう言っていた。ちいさい子どもがいたずらを成功させたようなえがおで、再び水の中へ潜って行く。乱反射する海水を、さらにきらめかせる金色が余りに器用に駆けるものだから、本当に魚のようだった。


『でもねー、やっぱりこうして、たまに帰ってきたくなる。』
『俺が帰る場所は、海だったりして。』

  確かにそうかもしれないと、俺も思った。ならばライオンと比喩したことを訂正しなくては、とも。
しかし無邪気にそう言った後輩は、次の年の夏合宿から、海に帰って戻ってこないままだ。





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