きらきらとイルミネーションが美しい街路樹に、電飾で覆われた店の看板。どこからかジングルベルの音楽が聞こえてくる。

今日はクリスマスで、道行く人は腕を組んでいたり手を繋いでいたり、カップルだったり家族だったり。今日カップルになったり家族になったりする人もいるんだろうけど、一人で歩いている人は大抵死にそうな顔をしている。

そしてまた、俺も死にそうな顔をしているうちの一人だ。

「…………出水のバカ野郎」

楽しげな音楽にかき消され、俺のつぶやきは誰に聞かれることもなく消えた。

俺だって今日は恋人と過ごすはずだった。
だが、あろうことか恋人の出水は、任務が入ったわごめん、とラインでだけ送って来て、それ以来音沙汰がない。

学校は冬休みに入ってしまったし、家の場所は知らない。
いつも俺の家に呼んでいたから。

寂しさを紛らわせようと商店街に出てきたはいいものの、ライフをごりごりと削られてもはや虫の息だ。所詮この世はカップル向けにできている。

耳にイヤホンをつめ、シャッフルで適当な曲を流す。始まった陽気な音楽を聞きながら、周りを見ないよう下を見つめて踵を返した。

母親に頼まれた買い物だけをさっさと済ませ、家に戻った俺は、そのままベッドに横たわっていた。枕元には紙袋が置いてある。ご丁寧に赤いリボンまでつけて。

彼女にあげんの、なんて妹がからかってきたけど、もちろん出水のために買ったもの。
まあ渡すのはいつになるかって話だけど。
妹は彼氏と過ごすらしく朝からいないのだが、それが余計に腹立つ。親は親で変に気をつかってくるし。

それもこれも出水のせいだ、と勝手に責任転嫁して、俺は夕飯の時間までゲームをして過ごすことにした。

据え置き型のゲーム機の電源をつけたところで、ぴろんと軽快な通知音。

「……?」

何事かと携帯を取ると、何と出水からのラインだった。
行けなくなったと伝えてきた日から全く音信不通だったくせに、いったいどういう風の吹き回しだろう。

メッセージは簡潔で、「窓開けといて」とだけ。
「何で」と送っても既読はつかない。

勝手すぎると憤慨しても、結局窓を開けておくあたり、俺も甘いと言うか。

「あーもう、好きだバカ」

何かあるんだろと期待してしまうくらいには、俺は出水にベタ惚れなのだ。



「みょうじ」
「うわマジで来た」
「うわってなんだよてめー」

とっくに日付は変わり、家族は寝て(妹はぶち切れて帰ってきた。彼氏のプレゼントが元カノのものだったらしい)、俺一人が起きている時間帯。

出水はあの隊服姿のまま、ひょっこり窓から顔を出した。

細っこい体を引き上げ、窓から部屋の中に入れる。
途中でどちゃっと床に倒れ込んで大きな音がしたが、誰も起きる気配はない。

倒れた体を起こすと、俺の膝をまたいで座ったような出水がいた。
わしわしとその髪を撫でて、労をねぎらう。

「お疲れさん。てか、任務終わったのにトリガー使ってていいのか?」
「柚宇さんに完了報告の時間遅らせるよう頼んどいたから。まー見つかるとめんどいし、んな長いことは使えねーんだけどさ」
「ふーん」
「あー……あのさ」
「ん?」

気まずげな出水が、頬を指でかいた。
少し考え込んだあとで、小さく頭を下げる。

「ごめん。任務入れて」
「あー……うん」

正直、腹が立っていたのは事実だけど。
どう言おうか悩んでいたら、体温を感じない手が俺の手に触った。目を上げると、不安そうな顔の出水がいる。

「いや、まあ……いいや。こうして会いに来てくれたんだし、それで」
「…………本当に?」
「半分本当」
「半分ウソかよ! ったく……そんなこったろうと思ったけどさ」
「ん?」

出水が俺の上から立ち上がり、再び窓から外に出た。俺が窓辺によると、ちょいちょいと手招きされる。外に出ろと言うことだろうか。

裸足をそっと屋根に降ろし、出水の隣までよろよろしながら近づく。
ふらついた俺の腕をとって抱き寄せ、比較的安定した場所に座らせる。

「何だよ」
「埋め合わせだよ。まあ見てろって。……アステロイド」

出水の両手に、大きな立方体ができる。

ルービックキューブみたいだといつか言って、彼にひっぱたかれたのを思い出した。

出現した立方体はふわふわと空に飛び、出水はどんどんそれを追加していく。
みるみるうちにアステロイドはとあるものを形作っていった。

「えーと……クリスマスツリー?」
「そ。どこも行けなかったし、こんくらいはな」
「どう見てもただの円錐なんだけど。画伯か」
「うっせえよ!」

アステロイドでできた、巨大なクリスマスツリー(もどき)。

出水は衣服のセンスもないが、芸術的センスもあまりないようだ。逆に芸術的なのかもしれないが。

一番上に大き目のアステロイドを飾り、出水はやりきった顔で俺の隣に座った。

俺を3つほど縦に重ねたくらいの大きさで光るツリー。
夜中だからいいけど、もう少し時間が早かったら騒ぎになっていだろう。

「……え、何。ツリー見せるためだけに来たの出水」
「悪いかよ」
「任務終わりに」
「そうだけど」
「馬鹿か」
「おいみょうじてめーこの野郎!」
「いでっ、ちょ、のしかかんな出水!」

掴みかかってきた出水の顔が少し赤い。
戦うのはトリオン体とかいうもので、内臓なんかはないと言うけど、顔は赤くなるらしい。

耳を引っ張ってくる出水の鼻をつまみながら、思わず笑ってしまった。

「なんで笑ってんだよばか!」
「いや、ごめっ……ふはっ! 出水って案外ロマンチストだな」
「うっせ!」

自分のことは棚に上げて、そんなことを言う。

出水はぶすくれた顔で隊服から普段着に戻った。アステロイドのツリーもそれにつられて霧散する。

ようやく寒さを感じるようになったのか、ぶるりと体を震わせた彼を抱きしめる。
驚いたのか体をこわばらせる出水の耳元でぽそりとささやいた。

「ありがと、出水。嬉しい」
「……おー」

腕に顔をうずめて、そっと寝間着の袖を握ってくる出水が可愛い。
いつもはカッコいいくせに。

忙しい合間を縫って、見つかれば怒られるようなことをして。
それでも俺に会いに来て、ブサイクなツリーを見せてくれた。

それだけで、一緒に過ごせなかったとしても構わないかと思ってしまうのだ。

しばらく抱きしめ合って、寒さがしのげなくなってきたので再び家の中に入った。今度は音を立てずに。出水は靴を脱いでから上がった。

「出水泊まってく?」
「朝どーやってごまかすんだよ。今日は帰っとく」
「んー」

確かに、今妹はハートブレイク中だ。
これで俺が恋人(性別はどうであれ)と過ごしたら絶対ぶち切れる。面倒くさい。

ならプレゼントを先に渡そうかと枕元に手を伸ばしたら、出水が俺の手を引いた。

「どした?」
「……帰るけど、しばらくあったまりたい」

にや、といつもの笑みを浮かべて、出水は手を広げた。

「……しょうがないなーまったく出水くんはー」
「言ってろ、みょうじのばーか」

出水を抱きしめて、ベッドに倒れ込む。
顔を見合わせて、再び笑った。

翌日、抱き合ったまんまぐっすり眠る俺と出水が、よりによって妹に見つかって、家族からすさまじい尋問を受けるのだった。

「いつ!? いつからよ!? 攻めは? 受けは!?」
「あーこいつが」
「黙れ出水バカ!」

すこし不格好な

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