12月20日、クリスマス前。年末でもある。

年末というとどうしても避けられないものがある。大学生も高校生も中学生も。

そう、期末試験である。


「もう死ねよ。テスト死ねよ」
「口を動かす暇があるなら手を動かせ」
「手動かしたって頭入んねーよこんなもんよー。なんだよ年内にやるとか。いいよ来年やろうよもう」
「うるせえ」
「いだっ!」

辞書を手に取った二宮が、俺の頭を角で叩いた。穴空いてないかコレ。

俺と彼の取った科目は年内にテストを終わらせ、年明けの授業は補講にするという形式をとっていた。当初は年内に終わるなんて最高だと言っていたが、年末はいろいろとやることが多くて、結局試験勉強もできないままテスト前日を迎えてしまった。

きちんと対策をしていた二宮に土下座(比喩ではなく)して、何をとち狂って受講したのかわからない科目を勉強しているのだが。

「あーもういい、この科目捨てる。いいよたかが2単位程度」
「ふざけんな、お前に費やした時間をどうしてくれるんだ」
「……ま、まあ1日だけだから……」
「あ?」
「すいません……」

目つきが怖い二宮におされ、しぶしぶもう一度シャーペンを手に取る。
もう宇宙語にしか見えないノートを読み返しながら、指でペンを回した。向かい側に座った二宮は、ゆうゆうと読書している。洋書なんて読みやがって。

しばらくお互い無言で、俺が書く音と二宮がページをめくる音だけが部屋の中に響く。

ちくりと視線が刺さった気がして、そっと顔を上げる。しかし二宮は本から目を離してはいない。気のせいだろうか。

再び視線をノートに落として、そういえばと口を開いた。

「なあ二宮、お前クリスマスとかなんか予定ある?」
「……なんでそんなこと聞くんだ」
「いやあ、ナオちゃんに頼まれて」

俺の片思い相手にだけど。ナオちゃん、美人なのに。
どうしてこんな無愛想な奴がいいんだろうか。

「特に予定はないが、知らない奴と過ごす時間もない。断っておけ」
「え、俺から言うの?」
「俺はそいつを知らないからな」
「多分知ってるって。ほら、あのポニーテールのおっぱい大きい子」
「知らん」
「えー」

おっぱい大きいのに。
まあ知らないなら仕方ない、後で伝えておこう。で、あわよくば俺と一緒にどうですかって感じに。ならないか。あの子面食いだしな。

それにしても、一向にわからん。これもうマジで単位諦めたほうがいいんじゃないか。

「あーもうやめだやめ! わからん! 理解不能!」

ぎしりと椅子をきしませて、俺は大きく体をそらせた。固まった背筋が伸びるような心地がする。
そんな俺を見て、二宮が眉をしかめた気配がした。

「おい、いい加減にしろ、みょうじ。そろそろ真面目にやれ」
「真面目だったよ! でももう無理、まじでわかんねーもん! なんで世はクリスマスなのに俺はこんな苦しんでんの! 理不尽!」
「みょうじが勉強しなかったからだろが。どう考えても」
「そうだけどさー……。せめて何かご褒美くらいあればなあ……。どうせクリスマスはぼっちだし、ナオちゃんは二宮好きだし……」

単位がご褒美といえばそうだけど、そういうのじゃなくて、どうせならクリスマスらしいものが欲しい。例えばプレゼントとか。美味しいものとか。

例えば恋人とか。

「なー二宮、なんかご褒美設定してー。やる気出ねーよー……」
「なんで俺がそんなのしなきゃならない。くだらないことに頭を使う時間があるなら手を動かせバカ野郎」
「だってー」
「…………」

二宮が考え込んでいる。
やっぱり真面目だなあ、スルーしたっていいのに。

真面目な彼が考える「ご褒美」がどんなものか知らないが、何を言われたところで、どうせやる気なんて起きないだろう。だってもうわかんないんだもん。

机に顔を伏せ、二宮の言葉を待つ。

「……おい、みょうじ」
「なんだい」
「具体的に欲しいものはなんだ」
「クリスマスを一緒に過ごしてくれるかわいい恋人」
「ダッチワイフでも送ってやろうかてめえ」
「二宮がダッチワイフって言った!」

でもできればラブドールがいいな。いやそうじゃなく。

恋人と聞いて、さらに二宮が悩んだ。

けしかけた俺が言うのもなんだけど、二宮はもう少しラフに生きていいと思う。なにやら今年は、頭の痛い出来事が多かったようで、一時期げっそりやつれていたし。

真面目もいいけど、たまには羽目を外したっていいはずだ。

机と腕でにやついた顔を隠し、どう返してくるかを待った。
しばらくして、二宮が俺の名前を呼んだ。

「みょうじ」
「はい」

「……恋人が欲しいなら、俺が恋人になってやる」

「……は?」

超次元に達した二宮の考え方が理解できず、一瞬固まった。

沈黙がよぎって、これはもしかして二宮なりのギャグなのだろうかと思い至る。
ならばツッコミを返さなくては。

「い、いやいやそういうんじゃ、」

顔を上げながら言いかけたが、途中で固まった。
ぽろっとペンが手から落ちて、乾いた音を立てる。

二宮の頬といわず耳といわず、顔全体が真っ赤に染まっていた。

俺がぽかんとそれを見ていたら、二宮は肩を震わせながら、持っていた文庫本で顔を隠した。
顔全体を隠すような大きさはないから、はみ出たところが赤いのも丸わかりだ。

「え、……えっと」

なんなの、俺。

なんで可愛いとか思ってんの。

こんな、可愛げも愛想もない、おっぱいもない男に。

二宮の赤いのが伝染して、俺までじわじわと頬が赤くなる。
12月だというのに、暑くて仕方がない。

「……あの、えっと……もうちょっと、頑張ります……」
「……そうしろ」

今年のクリスマスは、本当に恋人と一緒に過ごせるのだろうか。

リップサービスか、それとも

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