クリスマスイブである。

クリスマスといえど近界民は構わずやってくるので、任務はなくならない。年末年始だって休みなし。ブラック企業も真っ青のブラックぷりだが、朝から晩までというのは少ないし、連勤だってわりとまれだし。

まあ俺は、6連勤明けの今日は朝から晩まで任務でしたけどね。

彼氏と過ごしますとか彼女と過ごしますとか友達とパーティしますとか、ふざけんなよ。
俺だって恋人といちゃつきたいよ。でも向こうも任務だよ。

悔しかったので、近界民はいつもよりいたぶってから倒した。

「はあ……」

イルミネーションが目に痛い商店街を抜け、一人暮らしのアパートへと向かう。
人気のない住宅街は、もう日付が変わる直前なのにも関わらず楽しそうな笑い声があふれている。

身と心の寒さをしのぐため、コートのポケットに手を突っ込んだ。

ちなみにポケットの中には、沢村さんからもらったクッキーが入っている。
せめてもの気分ね、と笑って渡してくれた彼女に多少は癒されたが、彼女もまた好きな人と過ごすための仕事なので、充実といえば充実なのだろう。
それを考えるとまた少し凹んだ。

「そもそもさあ……6連チャンってなんなんだよ……」

誰もいないのをいいことにぼそぼそとぼやいた。

恋人に、クリスマス一緒にいたい、と可愛らしくねだられて、プレゼントも買って準備万端だったというのに、直前になって任務が入って。

血の涙を流しながら謝ったら、向こうも任務だと告げられ。

いよいよ上層部は俺のことが嫌いなのかと疑ったほどだ。

「あー、天羽に会いたい……頭なでくり回したい……」

3つ年下の恋人は、ちょっと天然と言うか、電波ちゃんというか。とにかく少しずれた子で、そこがまた可愛らしい。
そんなだからか、イベントにもさほど興味を示さない。

そんな天羽が、世の空気に感化されてクリスマスを一緒に過ごしたいと言ってくれて、断る理由も道理も俺にはなかったというのに。

そろそろ待遇改善の嘆願書でも出してやろうかと、拗ねた頭で考えながら、アパートの階段を上った。俺の部屋は一番奥だ。

かつんかつんと金属の階段をのぼりながらマフラーを解いていると、俺の部屋の前に何かがあるのに気が付いた。

なんだ、と目を凝らして、視認できた途端、手からマフラーが滑り落ちる。
床にぱさ、と軽いものが落ちる音がした。

部屋の前で膝をかかえ、こっくりこっくりと船を漕ぐ人間。

俺の思考のすべてを占めていた恋人、天羽だった。

「あもっ……天羽!?」

どもりながら天羽のもとへ駆け寄る。
いつものパーカーだけで、コートも着ていない。手袋すらしていない。赤くなっている頬に手をやると、氷のように冷たくなっていた。

「天羽、おい!?」
「ん……」

ぱち、と大きな目が開く。
俺の姿を確認した途端、少しだけ口の端が持ち上がった。

ああ生きていた、とか思う前に、あまりに貴重過ぎる笑みに体がこわばる。

天羽はそんな俺にはおかまいなしで、両手をこちらへと差し出した。

「ん」
「え?」
「さむい」
「そりゃね!?」

意図を察して、その両手を俺の両手で包む。

ポケットの中に入れていたから多少は暖かいが、天羽の手はぐんぐん体温を奪っていく。
手だけでは全く足りないので、コートを脱いでそれで天羽をくるんだ。
ああ、そうだマフラー拾わなきゃ。

ひとまず鍵を開け、中に入るように言ってから、マフラーを拾うために踵を返した。



「天羽、今日任務じゃなかったのか?」
「任務だったよ」

冷え切った天羽はコートが気に入ったのか、中に入ってもくるまったままだった。
小動物のような姿に癒されつつ、暖かいココアを淹れて渡してやる。

それを受け取り、ちびちびと舐めながら、天羽がこちらを見上げた。

「でも、早く終わらせた」
「……またどっか平らにしたの?」
「してない……」
「そっか、偉いね」

頭を撫でてやると心地よさそうに目が細まる。
ああ可愛い。

そうだよこうして頭を撫でたかったんだよ。
若干ドヤ顏なのがまたかわいらしい。

それにしても、S級の任務を早く終わらせるとは。さすが戦闘力だけなら迅をしのぐ、と言われるだけはある。俺なんかA級の任務でひいひい言っているというのに。

「みょうじさんに会いたかった」

ぽつん、と雫が落ちるように静かにこぼれた言葉を、俺の耳は聞き逃さなかった。

「……うん、俺も会いたかったよ」

コートの上から天羽を抱きしめて頬ずりする。

それにしても、ふがいない。
俺が仕事を早く終わらせられれば、天羽はこんなに冷たくならずに済んだというのに。

いやでもまだ追加されそうなのを逃げ切って帰ってきたからな……いやいや。そもそも他の奴らと同じように恋人と過ごすからと言って休めばよかったか。

時計を見ると、すでにイブは終わり、25日になっていた。クリスマス当日だ。

当初の予定とはずれたものの、どうにか25日は一緒に過ごすことができそうだ。
顔をいったん離し、にっこりと微笑みかけた。

「ねえ天羽、俺プレゼント用意したんだよ。受け取ってくれる?」
「うん。でもその前にこれもらって」
「ん?」

腕の中の天羽がごそごそと動いて、なにやらかわいらしくラッピングされた小さな箱を取り出した。

え、なに、まさか?

「メリークリスマス」

「っ……!!」

口から漏れそうになった歓喜の声を、どうにか抑え込む。
今の時間じゃ壁ドンは避けられない。下手をすると通報コースだ。

しかし聖夜に降り立った天使がここにいる。

俺はいっそうきつく天羽を抱きしめた。

「ありがとう天羽、絶対大事にするからね!」
「……どっちを?」
「プレゼントも天羽も、どっちも!」

後で箱を開けて驚愕するのも、「迅さんが選んだ」と天羽に言われて迅を殴るべきか称えるべきか悩んだのも、また別の話。

くるまった恋人

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