12月24日、10時。

俺はみょうじさんとともに、隣の市の遊園地までやってきていた。

「ねえみょうじさん、手つながない?」
「お前手冷たいからやだ」

クリスマスなんだからデートしたい、と強硬に主張してみたら、呆れきった顔でじゃあどこがいい、と聞いてきたので、迷わず遊園地を指定した。
本当はどこでも、みょうじさんと一緒に過ごせるならよかったけど、せっかくなら目一杯遊びたかったのである。

さすがクリスマスと言おうか、遊園地は人でごった返していた。
カップルとか家族とか。あるいは友達とか。

俺達ははたから見れば、男二人で遊園地に来た寂しい人なのだろうけど、残念、恋人です。
だからそこの女ども、こっちみんな。

ちらちらとこちらを伺う二人組の女子を横目に、みょうじさんの腕をとる。フリーパスを買おうか悩んでいるようだ。

「パス買うの?」
「どっちでもいいけど……パス買っても元とれなさそうだな」
「この混みようじゃあねえ。じゃ、やっぱ券買って乗ろっか」
「そうだな」
「うん。みょうじさん乗りたいのある?」
「あんまり来たことないからなあ。お前に任せる」

横からパンフレットを見ながら、それじゃあ、と口を開いた。

俺は基本的に絶叫系が好きだけど、彼はどうだろうか。あんまり騒ぐイメージもないけど、大丈夫かな。ホラー系とかも平気そうだし。
一応絶叫は大丈夫かと聞いてみたら、太刀川さんの運転よりはましだと返された。

荒いわけじゃないけど、運転する前にブレーキどっちだっけと聞いてくるから乗りたくないらしい。俺もそれ乗りたくない。

「じゃあ、これ乗ろうよ。行こう」
「わかった」

まずは手始めに、大きなスペースシャトルが振り子のように回るアトラクションに乗ることにした。おいだからついてくるなそこの女ども。

ちょっといらつきながら、みょうじさんを奥にやってその隣に座る。
せっかくボーダーからの呼び出しも来なさそうな隣の市まで来てるんだから、邪魔しないでほしい。

これ見よがしにみょうじさんと手を繋ぎ、素早くほっぺにキスした。

「……何だよ」
「べつにー。なんとなく」
「まあいいけど」

人の目に無頓着だと、こういう時に嬉しい。



その後も、あの二人組はあちこちについてきた。
彼氏がいなくて二人で遊びに来たら、ちょうど二人組の男を見つけましたってところなんだろうけど、いい迷惑だ。みょうじさんは俺のなのに。

ジェットコースターも鏡張りの迷路も、なんやかんやと後ろについてきてはこちらを気にするし。

「犬飼、どうかしたか?」
「んー……さっきから付いてきてる女子が鬱陶しいなって。ごめんね」
「ああ、そういえば来てるな」
「入ってこなさそうなとこ行こっか。……と、その前にトイレ行ってくる」

絶叫系のアトラクションに乗りすぎて、髪もだいぶ乱れてしまったし、ちょっと直しておきたい。それを伝えると、みょうじさんはトイレの場所を示す看板を指さした。

「絶対あの人たちについていかないでよ」
「はやく行って来い」

釘をさしてから、俺は足早にトイレに向かった。

髪を直して、ついでに小用を済ませる。せっかくみょうじさんと出かけているのだから、あまり不満げな表情をするわけにもいかない。
あの二人組のことはあまり気にしないでおこう。

よし、と意気込んでから、トイレを出る。みょうじさんが待っているところへ向かって、遠目に彼の姿を確認して。
思わず足を止めた。

あの二人が、みょうじさんの前にいる。
どうやら話しかけているようだ。

「…………」

自分でもわかるくらい、顔が凶悪になる。
ずかずかとそこへ近づいていくと、だんだん会話が明瞭になってきた。

「……だからー、一緒に過ごせないかと思ってー」
「お兄さんたち2人なんでしょ? あたしたちも、直前になってふられちゃって」
「せっかくのクリスマスなのに彼女もいないなんて、寂しくないですかあ?」
「ね、行きましょうよっ」

うっぜ。彼女いなくても彼氏はいるっつの。

そう言ってやろうとさらに近づいたら、その前に、みょうじさんが動いた。
いつも通り、抑揚のない声でその二人に言う。

「いえ、すいませんけど、デート中なので」

「……えっ?」
「え、一緒にいるの、男……ですよね?」
「まあ」
「……ホモ?」
「かどうかは知らないけど、付き合ってます」

2人はぽかんとした後、気まずそうにその場を立ち去って行った。みょうじさんはそこでようやく俺に気が付くと、特に驚いた様子もなく戻って来てたのか、と声をかけてくる。
なんていうか、もう、うん。

「みょうじさん大好き……!」
「意味わからんけど、知ってる。時間的に次が最後だろうけど、何に乗る?」
「観覧車……」
「やっぱりそれか」

真っ赤になっているだろう頬を隠しながら、みょうじさんの手をとって恋人つなぎにする。なんでこの人は俺を喜ばせるのがこんなに上手なのだろうか。

悔しくて肩に頭をぶつけてみたら、「痛い」と少し不満げな声が隣から聞こえた。

列の一番後ろに並び、30分くらい待って、ようやく青いゴンドラに乗り込む。
ぐんぐん高くなっていく景色を窓から覗きながら、みょうじさんを呼ぶ。

「ね、みょうじさん」
「ん?」
「みょうじさん、俺と付き合ってるの?」
「はあ? 何をいまさら」
「だって嬉しかったんだよ。だから、もう一回」

みょうじさんの方を向いておねだりすると、彼は不思議そうに顔を傾げ、「付き合ってるよ」と繰り返してくれた。

じんわりとにじむ幸福感がおさえられなくなって、目の前の彼に飛びつく。
ゴンドラがぐらりと大きく揺れた。

「……なんなんだ今日は」
「なんかもう、改めてみょうじさん大好きって思って。今日はわがまま聞いてくれたし、まる一日ずっと一緒にいれたし、あの二人より俺のこと選んでくれたし。すっごいいいクリスマスだよ」
「良かったな」
「えー、他人事? そっちはどうなの?」

身体を離して、下から覗き込む。
みょうじさんは視線を横にずらし、少し考えてから、再び俺を見る。

口もとが少しだけ笑みを刻んだ。

「そうだな、楽しかった」

冷たい手が、そっと頬を滑る。
その手にすり寄って、俺の顔もでれっとだらしなく融けた。


「そういえばほら」
「ん? なにこれ?」
「母親から郵送されてきた。犬飼に渡せって」
「えーと……ん、鍵?」
「……うちのだなコレ」
「んん!?」

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