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甘やかしたいのはお互いさま

もしもの話、というか、絶対にあってほしくはない話だけど。

東さんが、同年代で、俺よりも落ち着いてて、頭が良くて、東さんの好みの人に会ったとして、俺の勝てる確率って何パーセントくらいなのだろうか。

『やっぱり同年代の方がいいなって、思うことはありますよー』
『恋人が子供なんですよね……年上には甘えるものって思ってるみたいで』
『たまには頼りたいとか、甘えたいとかこっちも感じますよ』

ここが悩み、年の差恋愛、という特集を見ながら、ぼんやりそんなことを考えた。



「東さん、週末の合同訓練なんですけど」
「あー……すまん、その日は大学院の用事が入ってな。代理は荒船と奈良坂に頼んだから、ぞの方向で頼む」
「……わかりました。じゃあこの書類は、あの二人に回せばいいんですね」
「ああ。悪いな」

忙しそうになにかの書類をまとめている東さんに一礼し、東隊の作戦室を辞す。
外に出てから、小さくため息をついた。

合同訓練が終わったら、少し時間がとれないかと聞いてみるつもりだったのに。

しかしまあ、大学院なら仕方がない。ただの高校生と違って、色々とやることも多いのだろう。
書類を荒船先輩と奈良坂に渡すべく、再び廊下を歩きはじめる。

年齢が他の戦闘員よりも少し上のせいか、東さんは普通よりも仕事量が多い。
訓練の指導なんかはもちろん、作戦の組み立てに指揮、内勤の人に任せるような書類なんかまで。それに加えて大学院にも行って、付き合いがあるからと飲み会にも参加して。

それでいて、俺には朝晩のメールや電話を欠かさないという、完璧超人っぷり。

本部に来る前に見ていた特集がよみがえる。
俺に頼りたいとか、甘えたいとか、思ってくれないのだろうか。

「…………」

「なにぼーっとしてんだ、みょうじ」
「いてっ」

後ろからすぱんと頭をはたかれる。
トリオン体だから別に痛くはないけど、気分的にたたかれたところをさすりながら、後ろを振り返った。

目深にかぶった帽子の間から、つり気味の目が俺を見下ろしていた。

「荒船先輩、お疲れ様です。ちょうどよかった、これあげますよいらないから」
「なんか渡し方うぜえな。……ん? これ東さんあてじゃねえのか?」
「用事が入って行けなくなったらしくて。奈良坂にも見せといてください」
「わかった。用事って院か。あの人忙しいな」

ぺらぺらと書類をめくりながら、荒船先輩がつぶやく。

そう、東さんは忙しい。
メールや電話はできても、会って話すとか、どこかに出かけるとか、そんな余裕はない。
黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、荒船先輩がわしわしと髪の毛をかきまわす。

「なんだよ、変に大人しいな。なんか変なもんでも食ったか?」
「緑川じゃあるまいしそんなことしませんよ」
「緑川だって食わねーだろ。……いや迅さんが差し出したらなんでも食うか」
「です。……ただ早く大人になりたいなと」
「はあ?」
「なんでもないですよ。それより、合同訓練のこと、よろしくお願いします」
「ああ。んじゃ、わざわざサンキューな」

最後に俺の頭をぽんぽんと叩いて、荒船先輩が去っていく。
向こうから来てくれたから、別に俺の手間なんてなかったのだが。

再び一人となった廊下で、またため息をついた。

大人になれば、東さんはもっと俺のことを、頼ってくれるんじゃないかと思う。

大学院はまだしも、作戦については現在勉強中、書類だって、徐々にだけど俺が処理できるものも増えてきた。指導もたまにだけどする。少しでも東さんや、もちろん他の人の負担を減らせればいいと思っている。

だけど、そんな俺の心情を知ってか知らずか、東さんがよく言うこと。

高校生の時しかできないこともあるぞ。
もっと同年代と遊んだらどうだ。
みょうじがそこまでする必要はない。
後は俺がやるよ。

そんな、子ども扱いもいいところな言葉ばかり。

「俺だって、頼ってほしいのに」

ぽつんとつぶやいて、俺は拳を握りしめた。

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