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知らぬは彼ひとり

※二宮とみょうじが恋人設定です。

それは、突然のことだった。

何の脈絡も前兆もなく、みょうじはいきなり俺の腕を引いた。
突然のことで、思わず持っていた本を取り落す。

俺があっけにとられて動きを止めたのをいいことに、あっという間に引き倒された。
ちょうどみょうじの前に首を差し出すような形になると、するりと顔が近づいてきて、俺の首に噛みつく。
歯の食い込む痛みに、思わず声をあげた。

「いっ……! みょうじ、おい」

肩を押して離させようとするも、ぎりっとさらに力が込められる。
このまま食いちぎられるのでは、と一抹の不安が頭をよぎり、仕方なく手をどけた。

肌を破る音がわずかに聞こえて、ようやくみょうじは口を離した。
ついでとばかりに舌で舐められて、ぞわりと背筋が粟だつ。
見上げると、薄い唇の端には俺の血がついていて、どれだけ強く噛んだんだとなじりたくなる。

先ほどまでキーを叩いていたはずの指が俺の首筋を触り、おそらくついているであろう噛み跡をなぞった。

「……満足したか?」
「まあ、多少は」
「理由か言い訳か、話すならどっちが先がいい?」
「両方黙秘で頼む」

ふざけんな、と返すと、ふざけてないぞ、と返された。

自由になった身体を起こし、改めてソファの上で向かい合う。
いまだ血がついたままだったので、みょうじの口の端を親指でぬぐってやった。

「で、理由は」
「だから黙秘って言っただろ」
「うるさい、お前にそんな権利があると思うな」
「俺に人権はないのか」

何を考えているのかわからない顔で、そっと目をそらすみょうじ。これは、何か隠し事があるときの癖だ。
ぎろりと彼を睨みつけると、今度は気づかないふりをされた。

どうあっても言う気はない、ということか。

気にはなるが、どうせ言いもしないことにいつまでも時間を割くのもばかばかしい。
俺はため息をついて、取り落した本を再び広げた。

「……もういい。理由を説明されても、俺に理解できるかは別だしな」
「できるかできないかで言えば、まあできないだろうなあ」
「腹立つな。それより、とっととそれを終わらせろ。何時間やってんだ」
「まだ2時間くらいだろ?」

始めた1時間くらいはまだ会話もあったのだが、さきほどまでみょうじがひたすら集中していたので、こちらから話しかけるのも悪いかと思い、黙って本を読んでいた。
かと思えば、突然首に噛みついたり。
一体何なんだ。

こうして二人だけで会うのは、実に2週間ぶりだというのに。
聞こえるか聞こえないかの音量で、ぼそりとつぶやく。

「……俺は明日昼からの任務なんだが」
「知ってるけど。……ん? ああ、そういうことな」

ようやく意図を察したのか、みょうじが再び取り掛かろうとしていたパソコンを閉じて、俺に向き直った。天秤は俺に傾いたようだ。

じんじんと痛む首筋を手が勝手に触る。腹いせに爪でつねると、なだめるように鎖骨に口づけられた。指でみょうじのスクウェアの眼鏡を取り去り、テーブルに置く。

脇腹を服の中に侵入した冷たい手がなぞって、背中がぞくりとした。

「ここでいいのか?」
「、いいから、早くしろ」

今更ながら、間接的でもみょうじを誘ったことが恥ずかしくなる。
誤魔化すためシャツを引っ張ると、みょうじはうっすらと笑みを浮かべて、顔を近づけてきた。
驚きを口に出す間もなく、口内にぬるい舌が侵入する。

「ん、むっ」

彼が笑った衝撃と、その後のことのせいで、俺は噛み跡のことなど、きれいに忘れてしまった。



翌日。
身体のけだるさを換装体になることでどうにか消し(ついでにもろもろの痕跡も)、任務はつつがなく終了した。

「お疲れ様です、二宮隊長。技術部から、トリガーのメンテナンスをするようにと言伝を預かっています」
「ああ、わかった」

氷見から言われ、そういえばそんな時期かと思い出す。
技術部、そういえば、2,3確認したいことがあった。

メンテナンスならばどうせ模擬戦もランク戦もできないし、隊員総出で行く必要もない。俺は換装を解いてから、同じくトリガーをオフにした隊員に目を向けた。

「技術部に用がないなら、俺が持って行くぞ」
「え、いいんですか? でも……」
「どうせ用があるし、構わない。貸せ」

手を出すと、お願いします、と鳩原がそっとトリガーを差し出す。
それを受け取ると、じゃあ俺も、と今度は辻がよこしてきた。最後に犬飼を見ると、少し迷ったようだったが、結局渡さなかった。

「せっかくだし、俺も行きますよー。技術部見てて面白いし。一緒に行きましょ、二宮さん」
「……お前、受験勉強はいいのか?」
「い、息抜きですって! ほら、行きましょうよー」
「おい、押すなバカ」

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