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捨て犬のために

第二次大侵攻時、西部を防衛した天羽が、一帯を更地にしたと聞いた。
ゴタゴタが一通り片付いた、その後だった。



「うわ、すげー」

大きなクレーターがあちこちに形成されて、大きなガレキさえ落ちていない。
月の表面はこんなものだろうかと、写真でしか見たことがないくせにそんなことを思ってみる。

「これ、全部天羽が?」
「そう」

名前に衛星を冠する少年、天羽。
これをやった張本人でもある。

俺が西部を見てくる、と言ったら、じゃあついてく、とくっ付いてきた。独特の虹彩をこちらに向け、天羽は首をかしげる。

言葉が少ないと言うか、話すのを面倒くさがると言うか。
これは怒ってる?の意だ。

最初は何かわい子ぶってんだと思っていたが、今となってはある程度正確に読み取れるようになった。
だから笑って首を振り、それに応える。

「別に怒ってないよ」
「ほんとに?」
「うん」

舗装もはぎとられてしまったのに、やたらと歩きやすくなった道を、二人で歩く。

なぜ、ここに来たがったのか。その理由は極めて単純だ。
ここには、俺の家があったから。

とは言っても、もう誰も住んでいない、いわゆる放置家屋だった。今は俺は基地近くのアパートを格安で借りて、一人暮らしをしている。
ボーダーと提携しているので、他にも一人暮らしの隊員が住んでいたりするところ。

両親は、地方へ越していった。二束三文の値でも売れなかった家を放って、三門市にいたがる俺を残して。
だけど、近界民の襲撃が日常的になってしまった三門市の家を、誰が買うだろう。

「なくなって、かえって良かったかもよ。維持費とかいらんのだし」

もともとそこまで金もかけていなかっただろうから、これは強がりだ。

目印にしていた街路樹も、変わった窓のある家も、いつもきれいに整られた庭のあるお隣さんも、全てなくなってしまった。だから、もともとどこの位置に俺の家があったのか、わからない。

「みょうじ」
「ん?」
「……やっぱり、怒ってる?」
「怒ってないよ」

俺より少し下にある天羽の頭を撫でてやると、それなら、と彼は言葉を続けた。

「悲しい?」
「とは、ちょっと違うかな」
「なら、寂しい?」
「うーん、近い」
「……わかんないよ」
「俺もわかんないから、天羽がわかんなくても無理ないよ」

クレーターの底へ降りてみる。塀に使われるようなブロックが一つだけ埋まっていた。
周りを掘って取り出し、どこか見覚えのあるそれをひっくり返してみる。

「……あ」
「どうしたの……?」
「コレ、俺の家のだ」

隣にしゃがみこんだ天羽にブロックを見せる。
俺が小さい時に落書きしたダーツの的のようなもの、真ん中の二万点部分。ここに水風船やら石やらを投げて、点数を競っていたっけ。

戦闘時に爆風だって起きていただろうし、これは飛んできたものだろうか。
天羽の戦い方を、俺は未だに見たことがない。

「……ゼロ多い。二万点って、そこだけ当たれば勝つじゃん」
「いや、隣の一個下の子がうまくてさ。二万にしないと俺が負けたから」
「ザコ……」
「うっさい」

ブロックを持って立ち上がる。
他に何もなさそうだし、これ以上は時間の無駄だ。

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