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心から愛しい

25歳、ボーダー内勤、顔は普通、長所は我慢強いところ、短所はヘタレ。

これといった特徴もない俺に、恋人ができた。
彼女ではなく、彼氏、になるのだろうか。

相手はボーダー隊員、A級3位のチームのアタッカー、菊地原くん。

最初は恋愛感情すらなかった。しょっちゅう絡んできては特有の毒舌を残す彼が苦手ですらあったのだが、いつの間にやらそんな関係になっている。無論、手は出していないが。

割り当てられた部屋で書類仕事にいそしんでいると、静かに背後の扉が開く。
同僚や用事がある職員はノックをしてから入ってくるし、就業時間を過ぎた今、残っている職員は数少ない。
そして、気づかれないように入ってくる人間は一人しかいない。

「…………」
「…………」
「……みょうじさん」

気づかないふりをしていると、寂しそうな彼の声が聞こえてきた。
精一杯不機嫌そうに装っているが、寂しさが透けている。
そこでようやく振り向いて笑いかけると、ぶすくれた彼の恋人がいた。

「どうかした? 菊地原くん」
「……わかってて無視するって、相当性格悪いですよね」
「はは、ごめん」

一区切りがついた書類をまとめて机の端に置き、座り心地の悪い椅子から立ち上がる。

「何か飲む? 言ってもお茶かコーヒーくらいしかないけど」
「別にいいです。喉乾いてないし」
「そうか」

空のマグカップにコーヒーの粉を入れ、ポットからお湯を注ぐ。
そのわずかな間も、菊地原くんはずっと俺の隣に立ったまま離れない。すぐそこにソファがあるというのに。

湯気をたてるコーヒーを手に、ソファへ移動し腰を下ろす。
菊地原くんは俺の隣に座り、もたれかかってきた。

「任務は?」
「さっき終わりましたよ。でもまた朝に入ってるんで、今日は基地に泊まるんです。夜番朝晩連続とか、ありえないでしょ」
「うーん、俺かれこれ3日くらい家に帰ってないから、なんともなあ」
「手際が悪いんじゃないんですか?」
「厳しいな。まあ、お疲れさま」

低い位置にある頭を撫でてやると、菊地原くんはむくれて、俺の手からコーヒーを奪った。そのままカップに口をつけ、ひとくち飲む。
途端、苦い顔をして机に置いた。

「なにこれ、苦すぎ。みょうじさんこんなの飲んでると体壊しますよ」
「眠気覚ましだよ。あと少ししたら電話会議があるから」
「…………」

さらにむくれる年下の恋人。
この時間に来たということは、多分、俺と話したくて来てくれたのだろう。そうでなければ、任務帰りの疲れた体をひきずってくるわけがないし。再び頭を撫で、機嫌を取る。

だが今度は深刻なようで、鬱陶しそうに頭を振って逃げられてしまった。
どうしたものか。

「菊地原くん、ごめんね」
「なんですか。別にぼく怒ってないですよ。勝手にへこんで謝るのやめてくれます?」
「へこんでるのは菊地原くんのほうだろ?」
「…………へこんでないし」

それなら拗ねている、と表現してみようか。いや、さらに機嫌を下降させるだけか。

思わずその様子に笑うと、彼は腹を立てたように俺の二の腕をつねる。それをやんわり止めながら、俺は言った。

「会議は30分もすれば終わるよ、方針の確認だから。待てる?」
「子ども扱いしないでください。あとぼく、話したくて来たわけじゃないですから」
「俺そんなこと言ってないよ?」
「あっ……」

白い頬にさっと赤みが走る。
恥ずかしいのかぷるぷる震える菊地原くんをそっとカメラに収めようとしたが阻止された。残念だ。

とりあえず会議終了を待ってくれるようなので、俺は菊地原くんをソファに残し、ヘッドセットを装着した。パソコンを起動してワードを開き、議事録の準備もOK。

さて、30分と言ったけど、本当にそれで終わるかな。

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