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隠された本性

「カゲ?」
「! あ、ああ」

前の席の鋼が、不思議そうな顔でプリントを持っている。
それを受け取ると、小声でどうかしたのか、と尋ねられた。
確か、鋼はみょうじの幼馴染だったはずだ。

「……みょうじって、何者だ?」
「? 人間じゃないか?」
「はっ倒すぞ。そうじゃねーよ」

今見た光景と、前に見た罵りの場面を鋼に伝えると、なんら不思議はないという顔でうなずかれた。
そして次に、衝撃の事実を口にする。

「あいつ、昔からそうだぞ?」
「は?」
「気性が荒いというか、獰猛というか。小学生のころは、えこひいきする先生に俺が泣かされたからって、机投げつけてたからな」
「いや机投げるもんじゃねえだろ。そこは椅子とかにしとけよ。……じゃあ、いつものあれは」

「ネコかぶってるな」

あっけらかんと言われ、力が抜ける。
実にうまく隠したものだ。この俺が気が付かないほどだからよほどだろう。

「だから言っただろ? カゲにベタ惚れだって。じゃなきゃあそこまで隠さないよ」
「……まぁ、そりゃそうだろうな。180度態度ちげえし」
「ああ。……あ、でも前に何か……」

何か思い出そうとしているのか、鋼がはたと言葉を止める。続きを待っていると、少ししてから鋼はぽんと手を叩いた。古い。

「『カゲが油断してるうちにさっさと襲う』って言ってたぞ」
「それそんなのほほんとした顔で言うことじゃねーだろアホ!」
「影浦、村上! 私語をするな! 廊下に立ってろ!」
「うるせーハゲてんじゃねーよ死ね!」
「誰がハゲだ! 哀れに思うなら育毛剤か増毛剤をくれ! 朝起きて髪の数を数えて嘆く日々に終止符を打ってくれ!」
「先生、いっそ剃ればいいと思います」

うやむやのまま、授業は終わった。



「カゲ、どうかした?」
「……あー……いや……」

昼休み、俺はみょうじと二人で、いつもそうしているように屋上に来ていた。
立ち入り禁止なので他の誰かが入る心配はないが、今となってはどうしてここを選んだのかとすら思う。

隣に座るみょうじはいつもの通り可愛らしいが、あの光景を見てしまった後だ。純粋には見られない。みょうじは少し不思議そうな顔をしていたが、深く突っ込んでくることはしなかった。

いつもより言葉が少ないまま昼食を終え、しばしお互いに黙っていた。
だが、聞いてしまった以上は目をそらすこともできないので、俺は思い切って口にした。

「みょうじ」
「なに?」
「あー……、……お前がネコかぶってたって、鋼から聞いた」
「え?」

きょとんとした顔の彼に、二つの出来事を見てしまったこと、鋼から話を聞いたことをざっくりと話す。みょうじは少し驚いた顔をしていたが、俺が話し終えると、そっか、と小さくうなずき、それきり黙った。
再び沈黙になる前に、俺は続ける。

「別に、お前が本当はどんなんでもひかねーけどよ。変な奴に絡まれたら、俺に言えよ。ネコかぶってるってことは、人に知られたくないんだろ」
「…………うん」
「俺は今更、どう思われても構わねえ。隊員斬り裂こうが、変態ぶちのめそうが、俺なら平気だ。だから、頼れよ」
「……うん。ありがと、カゲ」

こつん、と形のいい頭が俺の肩にもたれかかる。
その頭を撫でてやっていたら、不意に視点が回った。気が付いた時には、視界いっぱいにみょうじの顔と、青空。
あああの雲がゾエに似てるな、と現実逃避しかけたところで、ようやく我に返る。

「え、お、おい?」
「うん、ほんとゴメン、カゲ。俺も別に、カゲが可愛いって思ってくれれば、他はぶっちゃけどうでもいいんだわ」
「は!? てかお前、口調……!」
「こっちが素。いやさ、高校入って、カゲ見つけてさ。一目惚れしたんだよ」

初耳だ。
告白されたときは、助けてもらった時に好きになったと言っていたのに。

「まあ男同士だし、そのままだとまずねーなって思って。この見た目で結構告白されてたから、高校デビューみたいな感じで、可愛い系にしとけばチャンスあるかもと」
「そんな理由かよ!」
「まあな。副産物として変態が量産されたわ。でも、カゲと付き合えたんならこっちに戻したほうがラクかな」

にやりと笑う顔が、いつもの柔らかい笑顔とあまりにかけ離れていて、くらくらした。
といか、いつまで俺は押し倒されているのだろうか。起き上がろうとしたら、なぜか体に力を入れても起き上がれない。体格は俺の方がいいはずなのに。

「カゲ」
「な、なん、だよ……」
「今はやらないけど、カゲが油断してたら、俺は襲ってOKって解釈するからね」

笑顔で言われた言葉に寒気がする。かつてこれほどまでに危機を覚えたことがあっただろうか。C級になったばかりの時でさえ、こんな恐怖を覚えたことはない。

何が怖いって、そう言われても、一向にみょうじと別れようと思えない自分なのだが。

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