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隠された本性

「みょうじ」
「わっ。カゲ、どうしたの?」

ふと思い立って、後ろからみょうじを抱きしめる。平均身長程度はあるものの、華奢な体つきの彼は、あっという間に腕の中に納まった。
心地よい暖かさを感じていると、みょうじが頬を摺り寄せてくる。

「急に甘えるなんて、どうしたの?」
「別に。黙って抱かれてろ」
「えー、もう」

理不尽な言葉に笑って、腕の中で向きを変える。
俺の背中に腕が回って、肩甲骨のあたりをそっとなでた。こそばゆさに肩を揺らすと、くぐもった笑い声が聞こえてくる。

「……みょうじ」
「カゲ、可愛いなあ。僕、カゲのこと大好きだよ」

本当に、俺の恋人は可愛い。

見た目が中性的ということもあるが、声や仕草、話し方に至るまで、みょうじは可愛い。
最初に見た時が男に告白されている場面だったので、普通に女だと思っていたら、制服が男子のものでようやく男とわかったくらいだ。

告白していた男が、前に俺に難癖をつけて来た奴だと気づいたので、とりあえず殴り飛ばした。鼻血を出して呻いていたが知ったこっちゃねえ。
だけど、みょうじと知り合うきっかけになったことくらいは感謝してやってもいい程度か。

とにかくそれがきっかけでつるむうちに、あっさり心臓を射止められ、現在の関係と相成った。鋼にはなぜかやたらと祝福され、当真や穂刈はうらやましいと連呼した。

「つーかみょうじ、そのへんの女子より可愛くね? 前女子に化粧されてたけどモロタイプだったわ」
「羨ましいな、普通に」
「略奪するか?」
「手出したらぶっ殺すぞ」

本気か冗談かわからない言葉にそう凄むと、鋼はのほほんとそれは無理だろ、と当真に言う。

「なんでだ? 嫌いなのか、当真のこと。みょうじは」
「いや。別に好きでも嫌いでもないと思う。そうじゃなくて、みょうじはカゲにベタ惚れだからな」
「…………」

なんでお前にそんなことがわかるんだと疑問には思ったものの、嘘をついてからかってやろうという気配もないし、本心から考えているのだろう。
ひとまず悪い気はしないので、鋼の頭をわしわしとかき回した。



そんなことを話した数日後。

俺はボーダー本部で、みょうじの姿を探していた。
午後からの任務は、あいつと合同。ミーティングと、後は話したいこともあったので、いそうな場所を歩き回っていた。

ふと、自販機の陰に、それらしき人物がいることに気が付く。
首を伸ばすと、やはりみょうじだった。だが、その目の前に、見知らぬ隊員が立っている。いわゆる壁ドン状態で。

「なあ、いいだろ? あいつなんかやめて、俺にしとけよ。後悔させないからさ」

これは、今まさに略奪されかけている状態なのか。
スコーピオンで喉を掻き切ってやろうと構えたら、突然、みょうじが鼻で笑った。ぎょっとして固まる俺とそいつをおいてけぼりに、嘲笑交じりに言葉を吐く。

「気持ち悪いしセリフはアホみてーだし、つーか何これ壁ドン? 身長大して変わんねーのにときめくわけねーだろ。馬鹿じゃね」
「え、……な、な……」
「お前と付き合うくらいなら豚とちちくりあったほうがまだマシなんだけど。俺と付き合いたいならまず10回くらい死んで来いよ。そしたら一瞬だけ考える」

男は膝から崩れ落ち、みょうじはその足をわざわざ踏んで、廊下を歩いて行った。
俺はとりあえず目を擦った。

「…………?」

見間違えだろうか。いや、でも俺がみょうじを見間違うのか。
よしんばあの人物がみょうじだとして、あんなことを言うだろうか。第一、一人称が「俺」ではなく「僕」のはずだった。

……昨日はそういえば夜更かしをしたし、今日も朝から腹が痛いので、きっと見間違いと聞き間違いだろう。そうに違いない。そうであってくれ。
自分にそう言い聞かせ、俺は改めて、みょうじを探しに出た。


そんなことがあった、また数日後。

みょうじにはあの時の片鱗すら見えず、やはり俺の気のせいだったのだと思った。

珍しく今日は遅刻するようで、ラインでプリントをもらっておいてほしい旨が来ていた。了承し、退屈な授業を受けていた時だ。

俺の席は窓際の最後列というベストポジションで、わからない問題にはとっとと見切りをつけ、解説の時間までぼんやり外を眺めていた。
その時、校門から慌てたように走っている人物が滑り込んできた。みょうじだ。

そしてその後ろからは、他校の制服を着た男。
堂々と入ってきているあたり、みょうじを追いかけているらしい。

ぶっ殺してやろうかとシャーペンをへし折っていると、俺が席を立つより早く、彼は立ち止まり。

その男の胸ぐらをつかんで、地面にたたきつけた。

「…………は?」

ちょうど解説が始まって、俺の間抜けな声を拾われることはなかったものの、光景から目が離せない。
みょうじはそいつを無理やり起こすと、両頬をビンタしてさらに頭突きし、回し蹴りをしてからさらにアルゼンチンバックブリーカー、その上筋肉バスターを決めてから地面に足を持ってたたきつけた。オーバーキルにも程がある。

ぴくりともしないそいつの頭を踏みつけてから、何事もなかったかのように校舎へ。

俺は目をこすってみた。しかし、やはり動かなくなった生徒がいる。
後で事務員が回収するのだろうか。俺のこの戸惑いも誰か回収してくれないだろうか。
今のは、一体なんだ。

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