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すれ違いの果てに

夕飯も風呂も宿題も終了し、今日はもう部屋でただごろごろするだけとなった。

のんびりと図書館で借りた小説を読んでいると、突然携帯が震えた。

時刻はすでに11時を回っている。不審に思いつつもメッセージを見ると、つい先日恋人に戻ったばかりの人物からだった。

「今何してる?」

スタンプ付きで送ってきたのは、今日防衛任務だったはずの米屋。
ラインができるということは、もう任務は終わったのか、お疲れさま。

読みかけの小説をボードに置いて、寝転がったまま返信をする。

「本読んでた。任務終わり?」
「おー まあ秀次がいたから楽勝だったw」

すぐに返ってきたメッセージに苦笑した。

三輪の近界民ヘイトはすさまじいものがある。

俺はボーダーでの彼を知らないけど、学校ではそこそこ優しいし、たまに抜けているところもあって、寡黙だけど面白いヤツ、といった印象だ。

米屋のこともあって、今まではこっちが勝手に避けていたけれど、最近はよく話すようになった。

前にイレギュラーの近界民が出た時は、それまで居眠りしていたというのに、一瞬にして瞳孔を開き、ものすごい勢いで窓から飛び出していった。あれは凄かった。
換装を解いたら、頬に袖ボタンの跡がくっきりついていたのがまた。

「お疲れさまでした。何か用あったの?」
「と思うじゃん? なにしてんのかなって思っただけ」
「大体いつも本読んでるよ」
「確かに学校でもよくよんでるよな おれ3ページでねるわw」
「もうちょっと頑張れよw」

リリエンタールのスタンプが送られてきた。キラーンすれば許されると思うなよ。
米屋のイメージと読書とは、確かに結びつかないけれど。

それにしても、ただ何をしているのか気になっただけでラインとは、前じゃ考えられないことだ。

寝る前におやすみと送ってきたり、登下校は任務がなければ必ず迎えに来たり、時折思い出したように好きだと言ったり。
中学生の時とは比較もできないくらいで、俺は嬉しいけど、もしかして、米屋の中でどこか義務になってやしないだろうか。今もこうして、疲れているはずなのに、わざわざラインを送って。

「米屋ー」
「なんだみょうじー」
「忙しかったり、疲れてたりしたら、無理して送らなくてもいいよ」

既読がついたけれど、さっきまで即座にあった返信は、今度はなかった。
何か勘違いしているのかもと、慌てて補足を送る。

「送ってくれるのは俺はすごく嬉しいけど、大変なら毎日じゃなくても大丈夫だから」

既読がつく。だけど返事はない。意味が通じたと信じたいけれど。

米屋と1年弱前に別れたことは、確かに辛かったし悲しかったけれど、もう一度付き合った今は、どの程度の距離にいればお互い傷つかないか、心地よく感じるかを学ぶいい機会だったと思う。

米屋の生活におけるボーダーの割合は減っていない(と思う)けど、前ほどは俺も寂しく感じない。
それはもちろん、米屋がこうして頻繁にラインをよこしてくれたり、好きだと伝えてくれることもあるのだろうけど。

だけどやっぱり、重荷になりたくないという思いは、今も変わっていないのだ。

返信が来ないので、充電でも切れたのかと携帯を置こうとしたら、再び携帯が震えだした。今度はラインではなく、着信のようだ。
無論相手は米屋だった。

「はいよ?」
『おーす。……ラインのアレなんだけど』
「うん」
『おれ別に無理してねーよ。むしろ今まで抑えてたのがこう、ブワッと』
「……あふれた?」
『そう! あふれた! なんかど忘れしてたわ、今』
「すんごいピンポイントで忘れたな米屋」

本格的なボキャ貧なのかと思って焦ったぞ、一瞬だけど。

米屋は気にしていなさそうに笑って、再び続けた。
ネコの鳴き声が電話越しに聞こえてくる。

『中学んときとかさ、みょうじに嫌われたくなくて、メールとか電話とか内容めっちゃ考えてたんだよ。お前頭よかったから、そういう話しないとダメかと思って』
「米屋に比べたら、誰でも頭いい部類なんじゃないの」
『うっせ! まー最終的に、毎回思いつかなくて、そもそもメールとか嫌いなんじゃね、とか思ってさ』
「ああ、だから俺がいつも最初に送ってたんだな」
『そう、それに返すのが精いっぱいっていう、……おれ超純情じゃね?』
「いや、ただのヘタレだろ」

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