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常に君に一直線

「だって、最近、おれのこと避けてる。話そうとしても話してくんないし、ラインもメールも返してくれないし」

言っていたら、だんだん悲しくなってしまって、こらえきれなかった涙が一粒、二粒と落ちていった。
きっとおれが悪いことをした。だからみょうじさんは怒っている。話してくれない。

「ねえ、悪いことしたなら言って。おれ、謝るから……絶対、次また同じことしないようにするから。みょうじさんに嫌われるの、嫌です」

みょうじさんは黙ったままだ。
やっぱり、許してもらえないのだろうか。そもそも、どうして避けられているのかすらまだわからないのだ。彼との暖かい関係は、もうここでおしまいなのか。

そんな、自分を追いつめるようなことばかり考えてしまう。
ぼろぼろと涙がこぼれていって、子供みたいにしゃくりあげて泣いていたら、不意にみょうじさんの手が離れていく。

どん底に突き落とされたような心地もつかの間、暖かいものがおれの体を包んだ。

痛いくらいに締め付けられて、息が詰まる。

「みょうじ、さん?」
「……あー、もう……」

自分の服が濡れるのも構わず、みょうじさんがおれを抱きしめていた。

中途半端な位置におれの手があって、どこにやればいいのかわからない。動かすこともできないので、とりあえず、そのままにしておいた。

しばらくそのままでいると、ぽつりとさみょうじさんが話し出す。

「……佐鳥さあ、前に言ってたよね。嫉妬してほしいって」
「え、あ、は、はい?」
「俺が嫉妬するとこうなるの」
「え、……えっ!?」

嫉妬するとこうなる。

衝撃的すぎて頭がついていかない。
おれの反応を見て、みょうじさんは大きくため息をついた。そして体を放すと、ちょっと笑ってから「シャワー浴びてから話そうか」と俺の頬をつまんだ。

おれはもとより、おれを抱きしめたみょうじさんもびしょぬれになっていた。



「……なるほど、あれを見てたんですね」
「うん」

みょうじさんがおれの髪をドライヤーで乾かしながら、少し拗ねたような声で答える。

彼は、2週間くらい前、おれがボーダー本部で女の子からお菓子をもらったところを見たのだそうだ。

彼女はおれの(自分で言うのもなんだけど)熱狂的なファンで、おれに憧れてボーダーに入ったのだという。なまじ年齢が近いからか、手作りのお菓子や小物なんかをしょっちゅうくれる。

その都度本部の方針だからと言ってお断りしているのだが、その時はたまたま押し切られて受け取ってしまった時だった。

……後で中を見てみたら、カップケーキに大量の髪の毛が入っていたので食べずに捨てたけど。ちょっと今度からはきつめにお断りしないと。

なんにせよ、その光景を見たから、みょうじさんはこうして盛大に嫉妬してくれたわけだ。

「へ〜? そうなんだ、ふ〜ん?」
「……普段はさ、生活圏なんてボーダーくらいしか被らないでしょ。だから俺のいないところでの話されても、あんまりピンと来なかったって言うのが本当なんだけど……実際に見たらダメだね。もう腹の立つことったら、あの女の子に」

ドライヤーの電源を切り、みょうじさんが後ろから俺に抱き付く。
現在位置はあぐらをかいた彼の膝の上だ。お腹に回った手をつつきながら、おれはにやにやとだらしない笑みをこぼした。

「みょうじさん、嫉妬したんだ? その女の子に。ふふふ、佐鳥ってば愛されてるぅ」
「あーもー、はいはい大好きですよ。ゴミ箱とチンピラ蹴っ飛ばすくらいには」
「チンピラも蹴っ飛ばしたの!?」
「なんか目つき気に喰わないって言われたから、ランク戦で細切れにしちゃった」

そのチンピラに同情する。
弧月で細かく斬り裂かれたであろうその人物に内心で合掌していたら、肩にみょうじさんの顎が乗った。

ぐっと近くなった彼の目が、ちょっと気まずそうにおれを見た。
いつも大人っぽくてカッコいいはずなのに、なんだか可愛く見えてしまった。

「ごめんね、面倒くさいやつで。……佐鳥に八つ当たりしたら嫌だから、ちょっと避けてたんだ」
「それはまあ、傷つきましたけど。でもそういう時こそ、確認のためにも佐鳥に会うべきじゃないですか?」
「え?」

よくわかっていない顔のみょうじさんのほっぺをきゅっとつねる。

「佐鳥は常に、みょうじさん一筋なんですよ」

自信満々にそう宣言すると、彼は珍しくきょとんとした後、ぽぽぽっと頬を赤く染めた。
照れたように目をそらす仕草がかわいくて、そんな顔を見るきっかけを作ってくれた女の子に、おれは少なからず感謝した。

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