感情当てゲーム
俺は便器のふたに座り、頭を抱えた。
ああして啖呵を切ったはいいが、カゲが答えられない問題というのが思いつかない。だってそもそもが、サイドエフェクトというのがよくわからないから言いだした遊びだったのに。
景品がどうなるかわからないから怖い、というのもあるけど、一応は勝負なのだから、5回全敗というのは避けたい。俺にだって意地はある。
「……って言ってもなあ……どうするか。……ん?」
ポケットの携帯がぴろん、と音を立てる。カゲからか。
わざわざなんだろう、と不思議に思いつつメッセージを見てみる。
「景品は焼肉で」
この野郎。
その一言から漂うふてぶてしさに、思わず顔をしかめる。
ジャストで嫌なところをついてくるあたり、あの時すでにばれていたのか。
このままではまずい。主に俺の財布が。
何か手がかりにならないかと、カゲとのログを見返してみる。大体が俺のボケと、カゲの辛辣なツッコミの応酬だ。
「……ん?」
ふと、気が付いた。もしかして、と再び全てのログをさらってみると、やはり、ない。
おそらく、ゾエでさえドン引きするであろう笑みが浮かんだ。
俺は秘策を思いついたようだ。
「ようカゲ」
自信満々に扉を開ける俺を、カゲが呆れた顔で迎えた。
「おせーよ、このボケ」
「ごめんて。……いやていうかカゲ何やってんの。何パズ○ラやってんの」
「キャ○ディーソーダはライフ待ちなんだよ」
「本当に何やってんの」
チョコがうぜえ、と言いながら、カゲが携帯をしまう。
そして余裕綽々の顔で俺を見ると、これまた小馬鹿にしたような声で尋ねた。
「んで? 負けを認めたか?」
「はっ。甘いなカゲ。俺は負ける勝負は挑まない」
「さっきまで完全に詰んでただろ」
「それはそれ、これはこれ。さあカゲ、俺の感情を読み取って、それを言ってみろ」
「あ? だから何度やってもおな、じ……」
カゲの表情が固まる。
徐々にカゲの顔が赤くなっていき、それなのに表情が苦々しげと言う不思議な顔になった。
どうやら、うまくいったようだ。
にこにこしながら、カゲに近寄る。うう、と動物のような唸り声をあげながら、後じさるその様子はかわいらしい。
この感情がカゲの弱点だったのだ。
「カーゲー。どうしたの? わかんないの??」
「うっ……てめー、卑怯だぞみょうじ……!」
「覚えがないなあ」
俺が今向けている感情、それは「カゲ大好き」。
ログを見ていて気が付いたが、カゲは好きだの愛してるだのという言葉を言うことが少ない。ただ単に照れているだけなのだろうけど、今に限っては、言わなきゃ負けになる。
言わなきゃ俺の勝ちだし、言っても俺は嬉しい。カゲの照れるところを見てこれまた面白い。
我ながらすばらしい良策である。
言おうとしているのか、口を開けたり閉めたりするカゲが可愛い。
「カゲ、いいのか? 言わないと負けだぞ?」
「わあってるよアホ! ……だ、」
「だ?」
体を乗り出すと、カゲはだ、だ、と何度も繰り返した後、観念したように俺にもたれかかった。
降参、と悔しそうに耳元でつぶやいて、カゲが俺の体を抱き込む。
ふははは、俺の勝ちだ。さっき1回でも勝てば俺の勝ちって言ったし。
「くそ……まさかそう来るとは思わなかった……」
「ココの出来が違うんだよ、ココが。あーよかった、焼肉回避できた」
ちらりと見上げると、形のいい耳が赤く染まっていた。
好き、と言ってもらいたかった気持ちもあるけど、まあいい。
この恋人は、人を罵倒する言葉はすらすら出てくるくせに、人に好意を伝える言葉は言えないようだ。まあそこも可愛いんだけども。
さて、景品は何にしようかな。この際だし、きちんと「好きだ」って言ってもらおうか。
そんな俺の感情を受信したのか、カゲがまた、悔しそうな顔をした。
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