10000打記念 | ナノ


全身丸ごと大好き

夢の中の菊地原は怖かった。

自分の四肢が切り取られても、抵抗もしなかったし声も上げなかった。形だけの文句は言っていたけど、結局あっさりと試し切りのベッドに乗って。

ずらりと並んだトルソーの一つになっても、別に気にしていなさそうだった。

「菊地原。俺が腕切ろうとしたら、怒る?」
「切られる前にトリガー起動するし。たかがB級が、A級3位に敵うわけないでしょ」
「だよな。安心した」

背中に回った手を前に持ってきて、その手のひらを自分の頬にあてた。
いつも体温が低いはずなのに、寝ていたからか随分暖かい。夢の中ではひたすら冷たくて、切る前から死人の腕のようだったのに。

掛け布団の中に手を入れ、今度は足を触る。切断したあたりを指でなぞると、ぴくりと菊地原の体が揺れた。
これも暖かい。ちゃんとつながっている。

「……俺さ」
「なに?」
「たぶん、もし本当に菊地原の手足切っても、捨てないでずっと大事にすると思うんだけどさ」
「切る前提で話進めるのやめてくれる? 切らせないって言ってるでしょ」
「いや、切らないよ。だってこんなにあったかいんだもん」

何度か、考えたことはある。

切り落としてしまっても、きっと俺は菊地原が好きなままだ。
喜んで世話だってするだろうし、変わらずに抱いたりキスしたりする。トリオン体だったら、学校だって任務だってできるだろう。

だけど、もう二度と抱きしめてもらえない。足を絡めて眠ることもなくなる。

切断して一緒にいられる長い時間よりも、例えばさっきみたいに、そっと抱きしめてくれるわずかな時間の方が、俺は好きだ。

菊地原の鎖骨のあたりに額を押し付ける。髪があたってくすぐったいのか、もぞもぞと細い体が動いた。

「菊地原、好き」
「は? いきなり何、みょうじ」
「いや、再確認して。大好きです」

突然の告白である。
そういえば、最初に告白した時、トリオン体の腕を切った後だったから、めちゃくちゃ警戒されたな。

そんなことを懐かしく思い出していたら、捕まえていた手がするりと抜けて行って、俺の頭に回る。菊地原はちょうど俺の頭をかかえるような格好になった。

「……ぼくも好きだよ」
「え!?」
「なんでそこに驚くの。好きでもない奴とこんなことするわけないでしょ。痛いし最初気持ち悪いし。みょうじキモいし」
「俺キモいんだ!?」
「え、キモくないと思ってたの?」

逆にそっちに驚いた、と言いたげである。傷つくわ。

しかし、今のは菊地原の貴重なデレだ。好きだとはっきり言ってくれたのなんて、片手で足りる数だし。

片手、手か。やっぱり、菊地原はこのままの方がいいな。切るのはトリオン体のときだけにして、生身の時は、縛るだけにしよう。
最初は抵抗していたのにだんだん抵抗も忘れて、というシチュエーションも好きだし。

……うん、考えるのやめよう。
ここで元気になったら、今度こそ菊地原に愛想を尽かされそうだ。

すっかり目はさめてしまったけれど、まだ起きるには早すぎる時間。
もぞもぞと菊地原の隣に寝転がると、これまた珍しく、彼は俺にすり寄ってきた。同年代の誰と比べても華奢な菊地原の体を抱きしめる。
背中を一定のリズムで叩いてやると、やはりまだ眠かったのか、だんだんと体から力が抜けていった。

細い腕が俺の体に回って、暖かい足が俺の足に絡む。安らかな寝息を聞いていたら、俺も眠気が再びやってきた。

「ふあ」

あくびをして、目を閉じる。
眠っていたはずの菊地原の手が、俺の頭をなでた気がした。

やっぱり、このままの菊地原がいいな。


「そういうわけなんで、とりあえず手錠買ってきた」
「100回くらい死んできて」

prev / next



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -