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自然体でいいのです

先日、付き合って一か月になる恋人と、初めて手を繋いだ。

外で手を繋ぐのはさすがに、ということで、俺の部屋。俺の手の上に恋人である村上の手が乗って、なんだかたとえようもなくむずがゆくなった。

同時期にアタッカーとして戦い始め、年は俺のほうが3つくらい上だけど、いいライバルとして切磋琢磨し合った。結果彼のほうが強くなってしまったが、村上は変わらずに接してくれた。

そんなところに惹かれ、思い切って告白したのが一か月前。
驚くことに告白したのが同時だった。
気が合う、と言って笑い合って、必ず村上を大切にしようと決めて。

だから、やや奥手すぎるかもしれないが、村上に手を出すのは、彼が高校を卒業してからと決めていた。



そう考えると、俺は今、理性を試されているのだと思う。

テレビの向こうでは、自分の子供の無念を晴らすため、見事な殺陣で敵を蹴散らしていく偉丈夫がいる。刀の持ち方さえ間違えているような作品と違い、これはきちんと持ち方も作法も勉強しているらしい。なかなかの良作である。

問題なのは、俺の膝の上に陣取っている彼だ。

「……村上」
「……はい」
「……座り心地、悪くないか」
「……だ、大丈夫です」
「……そうか」

膝の上で耳を赤くしている彼、村上。

大学前でわざわざ待ってくれていたので、諏訪の麻雀の誘いも断り(数秒で)、風間の自己鍛錬の誘いも断り(数秒で)、木崎の食事の誘いも断り(数分で)、彼を連れて、俺が一人暮らししているアパートへと連れて来た。

この部屋に来るのは二度目だ。
一度目は手を繋いだときだから、つい最近。

手を繋いだばかりだと言うのに、なぜ村上は色々とすっ飛ばして、俺の膝の上にいるのだろうか。

「……あの、みょうじさん」
「な、なんだ?」
「喉、乾きませんか。オレ何か買ってきます」
「え? いや、大丈夫だ。冷蔵庫に確か茶が入ってる」

腰を浮かせようとしたが、村上がいるので立てない。
それを察してか、村上は立ち上がり、俺に断って冷蔵庫のペットボトルを1本取り出してきてくれた。
……ん、1本しかなかったか?

自然な動作で再び膝の上に座られる。
足の痺れはまだいいとして、これほどまで近くに恋人がいると、さわりがあるから勘弁してほしい。大事にすると言ったって、俺も男だ。

「みょうじさん、どうぞ」
「ああ、ありがとう。……村上は?」
「え、あ」

なぜか突然、村上がどもる。
前を向いてしまったので俺からはうなじと背中しか見えないが、首まで真っ赤に染まっていた。
肩越しに彼の手が握りしめられるのを見ていると、村上は突然、俺のほうを振り向いた。映画の主人公は、血走った眼でこちらを振り向いた。

「……お、オレの、分は」
「ん?」
「……みょうじさんが、口移しで、ください」
「ごっ!?」

思わず変な声が出た。
握りしめていたペットボトルが軋む。

唖然としながら膝の上の村上を凝視する。自分で言って恥ずかしくなったのか、村上は真っ赤な顔のまま、再びテレビの方を向いた。

「や、やっぱりなんでもないです。忘れてください」
「お、おう……」

恥じらう姿がなんとも。いやいや。

色即是空、空即是色。
落ち着け、村上が卒業するまで待つと決めたんだ。男に二言はない。はず。とにかく待て落ち着け俺。

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