トリックオアトリート


いつも笑っているような目が見開かれる。
俺が言うとは思っていなかった、という顔だ。

自分が言いだしたのだから、自分が言われる可能性も考慮しなければならないだろうに。

しどろもどろになりながら、犬飼は俺から目をそらし、ようやく口を開いた。

「か、鞄の、なかに、」
「今」
「…………」
「ああ、持ってたか」

そう言って、ソファに押し倒した犬飼に口づける。

吐息を漏らす彼の口内に舌を滑り込ませて、口の中の飴を探す。
服の袖を犬飼の手がつかんだが無視し、ようやく小さくなった飴玉を奪い取った。顔を離すと、唖然とした表情の犬飼が俺を見上げている。少しだけ目元が赤くなっていた。

案外、打たれ弱いらしい。

体を起こし、奪った飴をかみ砕きながら、ふと思う。

「これ、イタズラなのかお菓子なのか、どっちなんだろうな」
「……お、俺に、聞かないでよ。……みょうじさん、なんか、いつもより積極的?」
「そうか?」

珍しく顔を真っ赤に染めた犬飼が、恨めしげにこちらを睨む。
そんな目をされても、痛くもかゆくもない。

積極的だとかそんなつもりはないが、強いて言うならばハロウィンだからだろうか。年に一度のイベントに、多少テンションが上がっているのかもしれない。

「……みょうじさん」
「ん?」

シャツの裾を引っ張られる。そちらに目をやると、上目遣いにこちらを見る犬飼がいた。

「何だ」
「飴、みょうじさんが取ったから。もう一個ちょうだい」
「ああ。向こうの棚の上に、」
「今」

そんなに気に入ったのかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
伸びてきた手が俺の肩を掴んで、引き寄せた。一気に距離が縮まり、吐息が交わるほどの近さに犬飼の顔が来る。

さっきの余韻か、少しうるんだ目が俺を映していた。

伸びてきた指が、眼鏡を取り去るのを横目に見ながら答える。

「今はないな」
「じゃあ、イタズラ?」
「……ああ」

にんまりと笑った犬飼がさらに近づく。

俺は彼の首に手を回しながら、そっと目を閉じた。prev next
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