1日だって離れないで(これの1p最後からのif)
三輪と付き合いたい。
その一心で、今日まで日に何度も告白を繰り返してきた。
しかし、よくよく考えてみれば、それを続けて顔も見たくないレベルに嫌われてしまったら意味がないわけで。
悶々としながら通路を歩いていたら、前からぼりぼりとぼんち揚げをかじって歩いてくる人物が見えた。
「あ、迅さん。お疲れさまです」
「ん? おー、おつか……」
自称実力派エリートは、俺を見るなりぴたりと動きを止めた。
唐突に食あたりでも起こしたのだろうか。迅さんがあまりにも動かないので、目の前で手を振ってみる。
するとようやく我に返ったようで、中途半端にかじりかけたぼんち揚げを口の中に放り込んでいた。
「なんですか、人を見るなり固まって」
「や、うん……なんていうか……」
「何か視えました?」
人を見て固まるということは、そういうことだろう。
何の気はなしにそう尋ねると、迅さんは言いにくそうにあちこち視線をさまよわせてから、やがて俺を見た。
その目になんていうか、哀れみのようなものが含まれているのがかなり気になる。
「みょうじがさ……」
「はい」
「……なんか、秀次に弧月突き付けられてるのが視えちゃったんだけど」
「? 通常運転ですよね?」
「うん、ですよね?って言われてもおれ知らないから。ただ、尋常じゃない雰囲気っぽいから気をつけな」
「尋常じゃない雰囲気……それはいいか悪いかで言うと?」
「城戸さんがぶちギレしたレベルで最悪」
「わーお」
城戸司令のぶちギレって、それはそれで見てみたい気もする。
というか想像するのが恐ろしい。いやしかし、そのレベルで最悪な雰囲気で、三輪に弧月を突き付けられるのか。
ちょっと惹かれる気もするが、そこまで嫌われたらマジで元も子もない。
そうなるとやっぱり、告白の回数を減らして、一回一回に力を込めたほうがいいのか。やはり今までのは、少し雑になっていたのかもしれない。
ありがたいことを教えてくれた迅さんに頭を下げ、礼を言う。
「ありがとうございます、迅さん。今度から二日に一回くらいにします」
「なんだろ、頑張れって言っちゃいけないっておれのサイドエフェクトが言ってる。まあいいや、頑張れ」
「うっす」
それじゃあひとまず、今日は帰るか。明日……いや、明後日にどう告白をするか、作戦を立てなければ。米屋の教科書はいいや、どうでも。どうせあいつ使わないし。
決意した俺は、迅さんへの挨拶もそこそこに、ダッシュで帰路をたどった。
「……あ。……すまん、秀次」
俺が帰ったあと、何を視たのか、そんなことを彼が言っていたとも知らずに。
俺が決意したその翌日。
俺は朝から防衛任務で、俺は例のごとく、隊長に三輪の素晴らしさを説きながら近界民討伐をこなした。しかし、違うのはその後。
いつも通り、任務の反省と報告書を仕上げて、反省を踏まえた訓練プラスランク戦。
ここで昨日までなら、三輪とランク戦をするぶんのトリオンは残しておくのだが、今日はすっからかんになるまで戦った。
よくよく考えたら、三輪を見て告白しないでいられるわけなかったので、帰る理由を作るためである。
ポイントをむしり取ったりむしり取られたり、たいして変動もないままランク戦を終えた。そろそろ三輪隊が来る頃か。
腕と足をのばし、凝りを取ってから、荷物を肩にかけた。
ブースから出ると、驚いたことになんの偶然か、目の前に三輪がいる。
どうやらここに入ろうとしていたようだ。
「うおっ」
「!」
俺と目が合って、三輪のつり目が少し見開かれた。しかしすぐに鬱陶しそうな目に変わって、眉間にしわが増える。
だが悪いな三輪、今日の俺は昨日の俺とは別人だ。
「お疲れ三輪。ブース使うか?」
「は? あ、ああ……」
「頑張りすぎるなよ。じゃあな」
三輪の肩を叩き、その場を立ち去る。今の俺超カッコいいな。うん。
とりあえず今日は学校を休んでしまったし、その分は教科書読んで補っておくか。教科書と言えば、米屋のヤツ忘れてたな。まあいいか。
携帯を開き、教科書のことを言っておこうとラインを開いたら、これまた偶然に米屋とすれ違った。そうか、三輪がいるならいるよな。
「あ。米屋」
「お、みょうじ。……あれ? 秀次は? ランク戦やってんじゃねえの?」
「今日はやらない。というか米屋、教科書いるか?」
「持ってきてくれたん?」
「いや、新聞と一緒にくくるか悩んでる」
「くくんな! 明日でいいから持ってきといて。つかなんでランク戦やんねーの?」
秀次さっきブース行ったぜ、と米屋がブースを指さしたので、俺はうなずいた。
「さっき会った。けどこれからは、数より質戦法で行こうと思ってな。二日に一回くらいの頻度にすることにした」
「あー、そういう……」
「そういうわけだ。とりあえず明日には告白する」
「なるほどな。まあ……頑張れ?」
「あざす。んじゃ、俺帰るわ。じゃあな」
「おー」
米屋と挨拶をかわして、その場を後にする。
いや、しようとした、その時。
突如後ろから首を引っ張られ、目の前に火花が散った。すごい、突然首を絞められると人ってこうなるんだ。違う。
「秀次!?」
米屋がだんだん遠くなり、俺は足を引きずられながら後ろ向きに進んでいった。
どうやら誰かが引っ張っているようだ。誰かっていうか、三輪が。
「み、三輪さん?」
顔を上げても、三輪は俺に背を向けたままで答えない。いよいよ怖い。
俺は何をしたのか。顔を見せたからアウトだったのか。次からは馬のマスクをつけるから許してくれないだろうか。
引きずられるままにたどり着いたのはランク戦ブースで、俺はその一室に放り込まれた。放り込んだ後にさっさと三輪は出て行ってしまい、状況を整理する間もなく、今度はモニターにランク戦を申し込まれた表示が移る。
数字は隣の部屋、おそらく三輪。
ランク戦を受けようにも、トリオンがほぼ空だから、せいぜいがナイフサイズのスコーピオンを振り回す程度なんだけど。
しかし、それを言って聞いてくれるような状況でもなさそうで、おそるおそるその申し出を受けた。トリオン体が転送され、工業地帯Cに立つ。
目の前には、顔をうつむけたままの三輪がいる。
「み、三輪、あの……」
「しね」
「うおっ!?」
ナチュラルな罵倒と、弧月の斬撃が飛んでくる。
それをスコーピオンでどうにか防ぐも、あっさり砕けてしまった。完全に無防備になった俺を三輪は蹴り飛ばし、壁にぶちあたったところで、首元に弧月を突き付けた。
前日の迅さんの予知が脳裏に蘇る。
「えっと……ご、ごめん?」
「何が」
「……告白、しつこかったから?」
思い当たるのがそれしかない。しかし、意外なことに三輪は何も言わない。
どうやら違うらしい。そうなるといよいよ心当たりがないのだが。
「えーと……」
「……今日は」
「ん?」
そう言って、三輪はようやく顔を上げて俺を見た。その表情がなんだか寂しそうで、ぎゅん、とないはずの心臓が高鳴る。
俺がそんなことになっているとも知らず、彼は言葉をつづけた。
「……今日は、……告白しないのか」
「…………ッッ!!」
俺はその瞬間、首を横に勢いよく動かした。横には三輪の弧月、つまり。
『戦闘体活動限界、緊急脱出』
そう、緊急脱出である。
マットにぼさんと落ちて、俺は即座に隣のブースへと走る。
黒いマットの上で待機すると、同じく三輪が転送されてきて、俺はその体を受け止めて抱きしめた。
殴りも罵倒もせず、三輪はおとなしくしている。
「三輪好きだ付き合ってくれ! というかもう結婚してくれ!!」
答えはなかったが、そっと抱きしめ返してくる三輪の可愛さだけで、おそらくぶちギレの城戸司令も倒せたんじゃないかと思う。
零様
企画へのご参加、ありがとうございます! 三輪夢でした!
米屋への扱いがぞんざいだとたぶんこうなってました。どちらにしろ三輪くんのぶちギレエンドですね! あと迅さんが後で大変そう。
リクエストありがとうございました!