他人の不幸は面白い
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(モブの女の子視点です)


中学時代にそこそこ仲が良かった友人が、久々に連絡をよこしてきた。

と言っても、まだ数か月しか経っていないのだが、私も彼もヒーロー科に進んだため、お互いになかなか忙しく会う機会がない。

久々だからと少しワクワクしながら待ち合わせ場所に向かうと、中学生の時より幾分か逞しくなったように思える友人が立っていた。

「みょうじ! 久しぶり!」
「お、扇風機、久しぶりー。悪いな、急に呼び出して」
「いい加減そのあだ名やめないと刻むぞ」
「はは、ごめんごめん。……いや、ほんとごめん」
「忘れたのね。もういいや。とりあえず、どこか入ろうよ」

私の名前を忘れたらしいなまえに軽く蹴りをいれてから、近くのファミレスへと向かうことにした。どことなく、彼は疲れたような様子だった。

店に入り、ひとまずはドリンクバーだけ注文して、きまり悪そうに押し黙っているみょうじに話しかける。

「で、どうしたのよ、一体」
「……いや……それがさあ……その……」
「鬱陶しい。ほらちゃっちゃと話す」
「うん……。あの、さ……」

あまりのキレの悪さに、もしや告白か何かだろうかと一瞬よぎったが、おそらくまあ違うだろう。もっとややこしい事態だ。
しばらく口ごもってから、ようやくみょうじは話し出した。

「俺、……今クラスの男二人からラブコール受けてるんだ」

「……エイプリルフールは過ぎたわよ」
「嘘じゃないんだよなそれが……。嘘ならまだマシだよ……」
「……とにかく、いったん全部話してみて」
「うん……」

観念したようにしゃべり出す彼の真剣な顔につられ、私も表情を引き締めた。

その「ラブコールを受けている」話をまとめると、雄英で実技の成績ツートップと言われる二人の男子生徒に告白されたとのことらしい。
一人は雄英の推薦入学者、轟焦凍。
もう一人はヘドロ事件、そして雄英の体育祭に優勝したことで有名になった爆豪勝己。

二人ともすさまじい戦いをしたのは知っているが、よもやそんなことになっていようとは。
告白は無論断ったのだが、どうもうまく伝わらず、しょっちゅうみょうじを取り合って暴れる(この言い方もどうかと思うが)らしい。そんなこと聞きたくなかったよ。

「……ええと……」
「どう言えば角立てずに断れるのかとか……むしろ断っていいのかとか……悩みすぎて最近わけわかんなくなってるんだよ……」

ぐったりと机に伏せるみょうじに、どんな言葉をかければいいのかわからない。ややこしい問題だろうなと思ってはいたが、まさかそんな話だとは思わなかった。

彼の個性は「兎」、そのものウサギの耳が、落ち込んだようにぴょろんと垂れている。相当参っているようだ。

「……あ、あんたBLとかに興味ある……? 貸す……?」
「やめろし! てか、あれだと思うんだよな……。二人とも、恋愛的な『好き』じゃないと思うんだよ……」
「へー。なんでまた」
「轟はさ……なんていうか、家庭の事情が複雑らしくて。こう……執着イコール恋愛とか結婚とか、そういう話になってる気がする」
「あー、エンデヴァーの息子だっけ。個性婚の」
「知ってんの?」
「わりかし有名だよ、ネットでは」

どこから情報が洩れるかわからないものだ。
はっきりと本人が断言したわけではないが、エンデヴァーは個性婚をしたのだという話はまことしやかにネット上に流れている。アンチの言うことだろうと、話半分に聞いていたが、体育祭の轟少年のすさまじさを見て納得したのは記憶に新しい。

確かにそういう家庭環境なら、執着と恋愛感情を同じに考えるのも無理はないかもしれない。

「で、爆豪くんとやらのほうは?」
「向こうも同じ感じ。戦闘訓練みたいなのでさあ、偶然爆豪と引き分けたんだよね」
「へえ! あの爆破に」
「うん」

ピョンピョン跳ねるだけのウサギかと思っていたら、意外に根性があったらしい。
そうでなくては、雄英になんか受かれないか。だがあのボンバーマンと引き分けるとは。

「引き分けて、で、どうなったん?」
「爆豪は勝ちにこだわるっていうか……完膚なきまでの勝利以外は認めないというか。で、俺が半端に引き分けたから、白黒つけようぜってめっちゃ絡んできて……執着イコール恋愛がここでも……」
「その男ホイホイなんなの? 中学ん時もあんた……」
「やめろ!」
「冗談。……とはいえ、執着されてるならあきらめるしかないでしょ」

人間の持つ感情の中でも、執着はことに厄介だ。相談されても、私にどうこうできる問題ではないから、話を聞いてやるのが関の山か。それでみょうじの気が済むならいいが。

「だってあいつらさー……轟はお前とコンビなら親父の事務所に就ける気がするとか、親父も認めるはずだとか言うし、爆豪はなんか無言で近く来るし、緑谷と話したくてもやたら威嚇して近寄らせないし……俺の学生生活が……」
「……それは……」

単なる執着、で片づけられるものだろうか。まあ別に、私には関係がないからどうでもいいが、この鈍感男に本気で恋をしていたとしたら、彼ら二人に同情したくもなる。

「まぁ、飲んで忘れなよ(ジュースを)」
「忘れる……俺お替わり取ってくるよ。何がいい?」
「コーヒー。あったかいやつ。そろそろメニューも注文しとくね」
「うん、頼んだ」

みょうじは人懐こい笑顔を浮かべ、ドリンクバーの元へと旅立っていった。その背姿を見送り、融けかけた氷と交じった薄いメロンソーダを呑みながらため息をつく。
轟、爆豪両者の気持ちも、わからなくはない。執着まではいかないが、みょうじを傍に置いておきたい気持ちはわかる。
単純に近くにいて落ち着くからだ。

私もみょうじが女だったら、女同士なんだからと言いくるめ、なんやかんやと執着するかもしれない。
そんなことを考えながら外を眺めていると、とある人物が目についた。

「……ん?」

大きなガラス越しの歩道、紙袋を手に歩いている赤と白の髪の少年がいる。その向こうから歩いてくるのは、やたらと目つきの悪い少年。二人はお互いの顔を見るなり、なんと歩道の真ん中でメンチを切り始めた。

「…………」

なんだろうか、二人ともものすごく既視感。
というか、つい最近、テレビの生放送で見たな。体育祭の。

「なあ扇風機、コーヒーなかったから紅茶なんだけどいい?」
「ああ……いやダメだよ! 戻れ!」
「え!? そんなにコーヒー飲みたかったの!?」
「違うわ!」

いらない天然を発揮するみょうじに、とにかくドリンクバーまで戻るよう言う。だが、彼が状況を呑み込むより先に、ガラスの向こうの彼らが気が付いてしまった。
メンチを切るのをやめ、プラスチックの安っぽいコップと白いティーカップを持ったみょうじを凝視する二人。
今年度の雄英体育祭1年の部、優勝者爆豪と、準優勝者轟だ。

ようやく事態のまずさを呑み込んだのか、固まるみょうじ。まるで狩られる前のウサギのようだ。

「ど、どど、どうしよう、扇風機」
「あー……。……とりあえず、座ったら」

大股でこのファミレスの入り口まで向かう狩人二人を見て、逃げられないと悟る。
彼を座らせ、私はさっきより大きなため息をついた。

あの二人の視線からして、私は攻撃対象に入っているんだろう。面倒なことである、別に中学の時の友人というだけなのに。

「執着、ねえ」

あの目線は、それだけでなく、やっぱり恋情なんかもも入っているように感じたのは気のせいだろうか。
しかし、二人の接近に怯える彼にそれを言うのも無体なことなので、私の中に収めておくことにした。彼には言えないが、この状況が多少面白くもある。

爆豪、轟が私たちのテーブルにたどり着くまで、あと数十秒。


千早様

リクエストありがとうございました! 爆豪と轟夢……に、なっているのでしょうか……。
扇風機の女の子は士傑の期待のルーキーという裏設定です、あまり役に立たない設定ですが! この子が千早様と思って読んでいただけたらなーと書いてみました!お楽しみいただければ嬉しいです!

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