小説家とヒーロー志望
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小説家の家にかっちゃんがの続き)
(MHAの爆豪がWTの小説家の家にいる)


爆豪勝己という少年が俺の家に突然やってきて、今日で三日。

近界民もボーダーも知らない、三門市という地名にも聞き馴染みがないという彼から聞いたところによると、爆豪は「ゆうえい」という学校で、基礎訓練の真っ最中だったのだという。
ヒーローを目指しているとか、あのヴィランをぶちのめすとか、そんな言葉に俺も若干戸惑った。

だが、締め切りが近いのになかなかこれぞ、という話が浮かばない俺にとって、爆豪の話はかなり魅力的だった。嘘でも本当でもどっちでもいいし、あの手の爆発が手品でもこの際構わない。

だから、話を聞かせてくれるなら、そしてそれを小説にしてもいいのならうちにいてくれても構わないと爆豪に告げた。彼は心底信じられないという顔をしていたが、結局了承した。
決定打はその学校名も住所も、検索をかけて出てこなかったことだろう。

犬飼がスカウトから帰ってきたらどうごまかそう、という心配も頭からすっ飛び、俺はひたすらプロットを練り、資料をあさり、設定を書きなぐった。その間、爆豪は完全にほったらかしだったが、少し予想外なことが起きた。

「おいメガネコラ」
「ん」
「早よ来いや! もうメシできてんだよクソが!」
「んん」

椅子をガツガツと蹴り飛ばされ、手元が揺れまくる。

続けようにも続けられないので、仕方なく椅子から立ち上がった。爆豪はいつも通りの仏頂面だったが、俺が立ち上がったのを見ると鼻を鳴らして、書斎から出て行く。

予想外というのはこれだ。
家にあるものは好きに使って構わない、自分のことは自分でやれと言っておいたのだが、爆豪はなぜか俺の分までやるのである。

書斎にこもって仕事をしていると、今のように食事に呼びに来たり、風呂が沸いたからと風呂場に投げ込まれたり。初日からこれが続いている。

俺に火傷させたことでも気にしているのだろうか。それとも単にそういう性格なのか。

別になんでもいいが。

机の上には食欲をそそる匂いを漂わせる食事が並んでいる。爆豪と向かい合わせに座り、手を合わせて箸を取った。

爆豪はもぐもぐと煮物を口に運びながら、テレビをつけた。
画面の向こうではにぎやかな音楽が流れ、お笑い芸人のMCが笑顔でこちらに話しかけている。

「お前バラエティなんか見るのか」
「別にいいだろ。テメーが外出んなっつうから暇なんだよ」
「出るなとは言ってない。出るならその……個性か? それ使うなってだけだ」
「だから出れねえんだろ」
「なるほど」

彼に「使わない」という考えはないらしい。
だったら出ないでおこうという考えには賛成だが、学校も訓練もないのは確かに暇だろう。書棚にある本は大体読み終えてしまったらしいし。

味噌汁をすすりながら何かほかに暇をつぶせるものがあったかと考えてみたが、特に面白そうなものは思いつかなった。
その時、テレビの場面が変わり、見慣れた赤い隊服が映る。

「お。嵐山」
「あ?」
「言っただろ、ボーダー機関。そこの広報部隊だ」
「広報?」
「強いぞ。例えばあのショートカットの女の子いるだろ」

テレビには、嵐山隊の面々が近界民を倒していく様が映されている。

木虎のブレードがモールモッドを粉々にして、彼女は澄ました顔で髪を耳にかけた。その動きを食い入るように見ていた爆豪がこくりとうなずく。

「あれが嵐山隊のエース。機動力と攻撃力、あと攻撃技術なんかはボーダーでもトップクラス」
「……」

爆豪はじっと木虎の戦闘の様子、それから嵐山と時枝の連携の様子を見つめている。

ヒーロー志望だと最初に言っていたが、爆豪は戦闘技術をもっと研きたいようだった。ふと思いついて、彼に尋ねてみた。

「もし木虎と戦うことになったら、どう動く?」
「はあ?」
「聞いた限りだと、対人戦闘が主なんだろ? ちょっと考えてみろ」
「……」

唐突な質問に顔をしかめた爆豪は、しかし自分の手をじっと見つめて何事か考え込む。
ややあってから、まず、と口を開いた。

「あの銃での攻撃が面倒くせえ。まずは距離をつめる。銃から剣に切り替わったところで、爆破で剣を壊す」
「スコーピオン……あの剣は、体中のどこからでも出るし形も変わるぞ。強度はそこまででもないけど」
「一瞬でもほころびができたら、あとはこっちのもんだ。最大火力をぶつけて勝つ」
「なるほど」

木虎はオールラウンダーで、自分の弱点の補い方を知っている。
しかし、想定外の事態に直面すると固まってしまう。爆破でスコーピオンが壊され続けたら、打開策を考える前に隙が生じるだろう。確かにその戦い方はありかもしれない。

あいつ無駄にプライド高そうだしなと呟く爆豪にお前もなと言いたいのをこらえた。

「……あ、そうか」
「だからなんなんだよさっきから! とっとと言えや!」

机を思い切り叩いてキレる爆豪をなだめつつ、テレビを箸でさした。
行儀悪ぃんだよ殺すぞ!と怒鳴るのを無視し、さわやかにボーダーの活動を語る嵐山を箸で示す。

「俺も一応ボーダーだから、支給された端末からアクセスすれば、嵐山隊だけでなく色んな隊の戦闘ログが見れる」
「! そーいや、最初に会った時、妙な武器使ってやがったな。あれがそのなんとかの武器か」
「ああ。100%お前にとって為になるとは言わないけど、ログ見せてやるよ。可能なら俺が解説する。それで多少退屈はつぶれるだろ」

戦闘訓練をさせることは無論できないものの、戦闘の様子を見せてやることはできる。
解説なら俺も手伝えるし、ただ無為な時間を過ごさせるのももったいない。締め切りに小説が間に合ったら本腰を入れて爆豪が帰る方法を探すが、それまでは放置なのだ。

そして退屈はピークに達していたのか、爆豪は戦闘ログを見せるという言葉に目を輝かせた。

年相応の姿が珍しいなと思っていたら、爆豪はすぐにはっとして、顔を引き締める。

「……テメーにそこまでされる筋合いはねえぞ」
「飯とか風呂とか掃除とか面倒見てもらってるからな」

「…………腕」

気まずげにぽつりと言われたことに、やっぱりそれかと納得した。

腕の火傷は、無論まだ完治していない。風呂に入ると痛んだりもするが、小説のことを考えていれば大体痛みは引くのでそこまで気にもしていない。

「そのうち治るだろ」
「…………」
「俺は打たれ強いんだ。この話は終わり」

ごちそうさまと再び手を合わせ、からになった食器をまとめる。爆豪はぶすくれた顔をしていたが、怒っているわけではないらしい。どちからといえばいぶかしがっている。

そういえば犬飼も、まだ付き合っていなかった頃、めちゃくちゃに暴力を振るってきた後に普通に接したら驚いていた。
そんなに俺の対応はズレているのだろうか。

爆豪は自尊心が極端に強いから、フォローを入れたら逆にキレるだろうと、見た目に反してなかなか柔らかい髪の毛を軽くたたいた。これできっと十分だ。
犬飼と付き合い始めて、面倒くさい人間の扱い方は多少なりと分かった気もする。

「後で端末持ってくるから、それまで待ってろ」
「……命令すんな、クソが!」
「はいはい」

ごちん、と背中に頭突きをくらい、爆破よりも格段に威力の低いそれを受け流す。

後ろから俺が持ち切れなかった食器をもって歩いてくる爆豪を見ながら、まずはどのログを見せてやろうかと、頭の中で算段を立て始めた。


「あ、終わった」
「チャンネル変えるなよ。この後のやつが見てえ」
「? 後の番組?」

『あなたは今宵、本当の恐怖を知ることになる……』

「!?」
「予告編が見たことねえやつばっかだっただしな。地域変われば内容も……」
「俺仕事するから見終わったら教えてくれ」
「は!?」
「無理」


匿名様

リクエストありがとうございました! 爆豪夢でした!
かっちゃんと小説家の絡みはもっと書きたかったので、リクエストしていただけてうれしかったです!
この二人はなんだかんだ言いつつ兄弟みたいになるんじゃないかなーと思います!
楽しんでいただければ幸いです!

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