衷心より愛する
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轟くんに告白された。

悩んだけど、別に断る理由もないから、付き合うことになった。

学校で見せるようなクールなところだけじゃなくて、少し天然気味なところとか、意外と気にしすぎるところがあったりだとか。

そういうところももちろんだけど、何よりも目を引くのは、やはりその個性だ。

体育祭以後は炎を使うことも増えて、氷とともに器用に操ってはトップの成績を叩きだす。揺らめく炎に照らされる彼の顔は壮観だった。

授業で見たその様子を思い出していたら、隣を歩いていた轟くんが、不思議そうに僕を見上げた。

「みょうじ?」
「えあ、何?」
「またぼーっとしてたから。どうかしたか?」
「えっと……ううん、なんでもない」

ごめんね、と謝ると、別に気にしてねえよと返された。表情がわかりづらいけど、たぶん心配してくれたんだろう。
このところぼーっとすることが増えたから。

轟くんは強い。
半冷半燃という個性を持っていて、どう使えばいいかも熟知していて。

その反対に僕は、自分で言うのもなんだけどとても弱い。
個性の使い方もいまだにわからなくて、入試だって、持ち込んだ道具でどうにかポイントを稼げた程度。今だって、雄英の授業についていけずに苦労している。

轟くんが僕を好きになってくれた理由もわからなければ、僕が彼に惹かれた理由もいまだにわからない。
わからないというよりは、目を向けたくないのかもしれない。

「……あ、僕、今日寄るところあるから、ここで」
「そうか。わかった、じゃあな」
「うん、また明日」

わずかに微笑んで、轟くんはいつもの道を歩いていく。
僕は用もないのに、分かれ道を進んだ。

誰もいない道に立ち止まり、僕は自分の手を見た。

僕は、自分より強い個性の轟くんと一緒にいることで、彼より上になった気分になっているんじゃないだろうか。
轟くん自体じゃなくて、個性しか見ていないんじゃないか。

「……嫌な奴だ」

時折うんざりするほど、僕は自分が嫌いになる。

そしてその翌日、なんとなく僕は体調が悪くて、学校を休んだ。

おそらく気分的なものだろうけど、都合よく親は出かけたし、一日くらいなら休んでもいいやと思って、相澤先生に連絡した。
休む旨を伝えたら、一日ゆっくり休んで明日には登校しろとのお言葉。
体調が悪いままずるずると長引かせるよりはという判断だろう。合理的である。

とはいえ、どこが悪いとかは明確にないので(強いて言えば頭と性格だろうか)、僕はひとまず、昨日の授業の復習をすることにした。

私有地ならば個性の使用は自由なので、庭に出て個性を使う。
昨日は戦闘訓練で八百万さんとペアだったけど、いろいろと問題点を指摘してもらった。周回遅れにならないよう、どうにかして追いつかなくては。

個性で庭石を動かしたり、植木を整えたりして、細かなコントロール力を培う。
無駄に大量の植木があるので、多少変になってしまってもわからない。

数時間くらいそんなことを続けて、疲れたので少し休憩する。縁側に座って携帯を開くと、数件メッセージが入っていた。

緑谷くんから1件、轟くんから2件。緑谷くんのは、午前の授業内容を軽くまとめたものだった。彼はまめだ。

「……轟くん」

そして、轟くんのメッセージ。気が重いけど、ひとまずタップして内容を確認する。

「体調悪いって大丈夫か」
「帰りに見舞い行く」

2件目を見てぎょっとした。

休むと言っても、ただの気分的な問題だし、見舞いに来られるほどじゃない。授業の内容なら緑谷くんに教えてもらっている。
第一、今会っていつも通り振る舞える自信がない。

「そこまでじゃないから平気だよ。授業も、緑谷くんに教えてもらったから気にしないで」

すぐに既読がついて、ものの1分で返事がやってくる。

「絶対行く」

なんでだ。

どうしよう、さっきまで親がいないのが都合がいいとか言ってたけど、今猛烈に帰ってきてほしい。朝の僕のバカ。
慌てふためくも、自主練に夢中になっていたせいで、学校が終わるまではもうすぐだ。
雄英と僕の家とはそこそこ近い。

どうするべきかと頭を悩ませていたが、ややあって、僕は考え方を変えた。

「わかった。じゃあ待ってる」

そう返事を書いて、携帯をポケットにしまう。

僕がこれ以上自分を嫌う前に、轟くんまで嫌いになってしまう前に。
とある一つの手段が、頭をもたげていた。



「別れたい?」

轟くんにそのことを伝えたら、怪訝そうな顔をして僕を見た。
端正な顔の人間が不機嫌そうな顔をするとものすごく怖い。

どもりながら、それでも自分の考えを口にする。

「やっぱり、その、なんていうか。……僕が釣り合わないというか……」
「そんなの、関係ねえだろ。俺のほうから言ったんだから」
「だけどさ、えっと……。その、僕のほうが、耐えられなくて」
「…………」

轟くんはすっと目を細めて、何も言わない。
しばらく重苦しい沈黙の時間が続いて、彼は呆れたようにため息をついた。思わず肩を揺らして、顔をそらす。すると、轟くんは僕のほうに体をあずけてきた。

慌てて支えると、彼は僕の肩に頬をくっつけて、ぎゅっと抱き着いてきた。体の右側が暖かくて、左側が少し冷たい。個性の影響だろうか。

こんな時まで個性に目を向けてしまう自分が嫌で、そっと体を放そうとした。

しかし、轟くんは腕を放さない。
恐る恐る肩に目をやると、左右違う目の色が僕を見ている。

「……どうせ、みょうじのことだから」
「う、うん?」
「俺の個性しか見てないとか、そんなこと思ってんだろ」
「……」
「分かりやすいんだよ、お前は」

あっさり言い当てられ、何も言えずに黙る。
轟くんは喉の奥で笑って、少しだけ体を放した。10pもないくらいの近い距離で、彼は言葉をつづける。

「別に個性が入り口でも良かったんだ、俺は」
「でも」
「お前が思うほど、俺は繊細じゃねえ。個性しか見れないって言ったって、個性だって俺の一部だ」

僕の目の前にかざされた轟くんの手が、冷たい空気を漂わせる。
それを浴びると、少し思考がすっきりした気がした。

そんなこちらの気など知らず、轟くんはさらりと爆弾発言をした。

「みょうじは気づいてねえと思うけど、お前相当俺のこと好きだぞ」
「んん!?」
「個性だけだったら、手つなごうとして帰り道中そわそわしたり、俺の右手と手つないで手汗かいたりしねえだろ」
「う……」

今ものすごく恥ずかしいことを言われている気がする。いや、事実だけど。

それでもまだ納得ができない僕に、轟くんがついばむようにキスをする。途端に固まる僕に、彼は口の端を持ち上げた。

「俺はみょうじと一緒にいたい。みょうじはどうなんだ?」

轟くんは、人との距離が近いと言うか、建前と本音が一致しているというか、裏表がないと言うか。
とにかくなんて言えばいいかわからないけど、いつも直球だ。

直球で来てくれるからこそ、僕も本音でいたいと思う。

「僕も、一緒にいたい、です」

心の底から絞り出した本音に、轟くんは少し笑って、知ってるよ、と答えた。



甘茶様
企画へのご参加、ありがとうございます! 轟くん夢でした!
本当の意味で想いあう、というよりはようやく入り口に立ったような感じの二人ですが、16歳だしうぶでいいんじゃないかな! と自分を納得させています。
楽しんでいただけたなら幸いです!
リクエストありがとうございました!

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