こどもになれなかったこども
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(きみが殺したぼくのこころ番外編)


入学からひと月が経過して、そろそろ学校にも慣れ始めた頃。

せっかくだからクラスの親睦会を開こう、と葉隠さんが終礼の時に提案し、クラスの結束を強めるためならと、委員長の飯田が推し進め、学業の妨げにならないなら好きにしろと、相澤先生も許可を出し。

会場は休みの日の教室、食べ物と飲み物は持ち込み、簡単なゲームをする、などなど軽く概要が決められて、役割分担もそこで決まった。

くじ引きで決められた俺の役割は、お菓子や飲み物の調達係だった。

「お願いしますわね。……それにしても、言ってくだされば私の家からお菓子もお紅茶も持ってきますのに……」
「そこはほら、八百万にばっかり任せるわけにはいかないから……。コップとお皿はいらないの?」
「ええ、創造りますから。頼みましたわよ、お二人とも」

そう、二人。
買い出し係は俺と、指緒勘解小路の二人だった。


当日、木椰区ショッピングモールで彼と待ち合わせをした。

時間より少し早めについたが、ひとまずメッセージを送っておく。既読はついたが、返事は来なかった。

指緒勘解小路なまえ。
苗字の長さばかりが目につくが、体力テストではかなり優秀な成績だったし、続く戦闘訓練でもすさまじかった。あんまり人の輪には入らないが、緑谷や麗日と一緒にいるところをよく見る。
だけど、俺とはほとんど話したことがない。

今日は、あまり気まずい雰囲気にならないでくれればいいが。
というか、そもそもどういう人間なんだろうか。

「尾白、おはよー」

考えにふけっていたら、いきなり声をかけられ、肩を揺らしながら主のほうを見る。

やってきた指緒勘解小路は、かぶっていたキャップを少しだけ上にあげ、顔をこちらに見せた。
いつも緑谷達に見せているのと同じ笑い方で俺のほうに近づいてくる。

「ごめん、もしかして時間遅れてた?」
「いやいや。俺が早めに来てただけだよ」
「よかった。じゃあ買い物済ませようか」

予算は5000円くらいだったよねと、確認をしながら彼はぐるりとショッピングモールを見渡す。
その動作が物珍しげというか、まるで田舎から都会に出てきた人間のようだった。
ここは初めてなのだろうか。

「もしかして、あんまりこういうところ来ない人?」

となりを歩きながらそう尋ねると、ああうん、実はと、思った通りの答えが返ってきた。

「あんまり人通り多いところ来ないからなあ。だからどこに何があるかわかんない、お任せします」
「了解、任されました。それじゃあ、とりあえず軽いものから先に買おうか」

まずは、スナック菓子を多く取り扱う店に入った。

休日の昼間でかなり人は多いから、さっさと買ってしまうに限る。
ひとまずみんな好きだろうポテトチップス系、シェアしやすいポッキー系をカゴに入れていく。
そしてまた、指緒勘解小路の行動が目に留まった。

今度はとある一点を凝視している。
何事かとそちらを見ると、駄菓子コーナーだった。

「何か気になるのあった?」
「あ、いや。……尾白、ここお菓子屋なんだよね?」
「そうだよ」
「……なんでタバコ売ってんの?」
「は?」

タバコ?ともう一度駄菓子コーナーを見ると、キャラメルだとかガムだとかの間に、シガレットチョコがあった。タバコっぽい見た目だけど実はチョコというあれだ。

「あれもお菓子だよ。見た目がタバコなだけ」
「見た目がタバコ……? ……吸うの?」
「いや吸わない。歯でこう、しごいて食べるというか……知らないのか? あれを? 親が厳しかったとか?」

確かにそれほどメジャーなお菓子ではないが、ここまで知らないというのもおかしな話だ。

「厳しい……うーん……。母親の手作り以外は食べるなって感じだったかな」
「手作りが好きなお母さんだったの?」
「……どうだったろう。忘れた」

どこか遠くを見るような目をして、彼はつぶやく。もしかして、聞いたらまずいことだったのだろうか。俺がそんな気まずい思いにとらわれているとは知らず、ざわめく中でもいやによく聞こえる小声が耳に届いた。

「もらいものは絶対ダメだったし……店で買ったのも捨てられてた。だから、お菓子とかあんまり食べたことないや」

今思うと過保護だよなーと笑いながら、指緒勘解小路はシガレットチョコを手に取る。片手に収まるサイズのそれは、確かにタバコっぽい。
俺はそれをそっと抜き取り、カゴに入れた。

彼がびっくりしたようにこちらを見たので、笑いながら口元に人差し指を立てる。

「まあ、ネタ枠ってことで。たぶんみんな面白がるだろ」
「……いいの?」
「そんな高いものでもないしな。他に気になるやつは?」
「いや、平気」
「そっか。じゃあお菓子はこれでいいな。……にしても、指緒勘解小路がシガレットチョコを欲しがるとはねー」
「ちょっ、別に欲しがってはないから! 気になっただけだから! 尾白!?」

慌てたように抗議されるのを聞き流す。

駄菓子が気になるなんて、子供っぽいところもあるじゃないか。いや子供なんだけど。
色白の頬を少し赤くして、そういえばと無理やりな話題転換をされる。

「指緒なんちゃらって長いだろ。なまえでいいよ」
「あ、そう? じゃあそうするよ。で、なまえ、ほかは? ゼリーでお寿司ができるやつとかいる?」
「いらない!」

背中に力の入っていない拳を落とされ、俺は笑った。


その後、飲み物を買って、開始の時間までまだ空きがあることに気づいた。
ちなみに、飲み物を買う段になっても、なまえは酒とジュースを間違えそうになったり、ドレッシングとジュースを間違えたりしていた。
俺は一旦なまえに荷物を任せ、木椰区のとある場所に向かっていた。

目当てのものを自分の財布で購入し、再び彼の元へ戻る。

ベンチに座ってぼんやりしていたのを見つけ、横から手に持っていたものを差し出す。

「はい。買い物お疲れ、なまえ」
「わ、ありがと。……これ何?」
「わたあめ。買ってきた、さっき見てたし」
「え、金!」
「いいよ、そんな高いものでもないから」

だったらなおさら、と払おうとする彼方の手に、ひとまずわたあめを持たせる。

祭りで見るような白一色ではなく、ピンクや青でカラフルに彩られている。これを持ち歩いている人を、なまえがじっと見ていたのに気が付いたからだ。

わたあめで片手がふさがって、もう片方は荷物で。
財布が取りだせず、払うのはあきらめたらしい。ありがとうとお礼を言ってから、なまえが綿あめにかじりついた。

「!!」
「おいしい?」
「口の中がパチパチする……!」
「気に入ったみたいだね」

新感覚を楽しんでいるのか、なかなか二口めにいかないなまえを微笑ましく思いつつ、自分の分を食べた。
学校では見ない彼のはしゃぎっぷりに自然頬が緩む。

半日一緒に過ごして感じたのは、彼の家が相当厳しいということだった。

シガレットチョコもそうだけど、みんな知っているだろうおもちゃやブランド、電化製品。山奥にでも住んでいたのかというくらい、全然知らない。
今の綿あめのくだりだって、見た目が白くないから聞いたのか、それとも本気で知らなかったのか曖昧だ。

過保護だと自分でも言っていたし、おそらくそうなんだろうけど、だからといってそこまで排除していいものか。

「尾白尾白」
「ん?」
「これって家で作れる?」
「機械があれば、作れるんじゃない? なんだっけなあ、空き缶とかで作れるとか聞いたけど、ものすごく熱そうだったしおすすめはしないよ」
「そっか、残念」

声は少しも残念じゃなさそうだけど、目はわずかに落ち込んでいる。
なんというか、子供っぽい。

見た目はクールで大人っぽいし、口調もどことなく大人びている印象だったのが、ガラガラと崩れていった。

「これ食べたら雄英行くよ」
「ん。……」
「……早く食べないと解けるからね」
「そうなの!?」
「原材料砂糖だよ、それ」

やっぱり、綿あめも知らなかったらしい。

見た目と中身は比例しないこともある。
なまえはたぶん、中身はクラスで1,2を争うくらいに子供なんじゃないかと、名残惜しそうに綿あめを食べる姿を見て思った。


藍様
リクエストありがとうございました! 尾白くんでした!
初の尾白くん夢なので、楽しく書かせていただきました! 尾白くんはナチュラルにお兄さんですね!
また、なまえが手作りのお菓子以外を食べられなかった理由は、おいおい本編のほうで明かせたらなあと思います。
リクエストありがとうございました!


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