きっと思いは同じ
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これの続き)
幼馴染に告白された。どうしよう。

そんなことを友人に相談したら、いいじゃんおいしいじゃん、フリーなら付き合っちゃえよと、まぁ軽ーい回答が戻ってくる。

だが、相手はれっきとした男、風間蒼也さんなのだ。


「なまえ」
「あ、そ、蒼也ごめん俺ちょっ……とりあえずバイバイ!」

逃げる。

「おい」
「なっ、なに!?」

怯える。

「…………おい」
「…………」

口を閉ざす。

そのほか既読スルーや自主休講なども網羅し、俺は面白いほど、蒼也に対して挙動不審になっていた。
だって仕方ない、蒼也が、蒼也があんなことを言うから。

『次は、お前から言いたくなるようにしてやろう』

「あ゙――――!!!」

どたばたとアパートの部屋でのたうち回る。
両隣から壁ドンが来て慌てて口をふさぎ、枕を抱えた。まるで恋する乙女のようだと自分の状況を客観的に見てしまって、またしてものたうち回った。

ちょうど今も、大学で蒼也に声をかけられて、速攻で逃げ出してきたところである。
勢いよくドアを閉めたせいか、手がじんじんした。

今の気持ちを端的に表すと、逃げたい。蒼也がいないところに。もっと言うなら、だれも俺をしらないところに。
だけどそんなことできはしないので、俺はあきらめて、状況整理をすることにした。

別に目の前に誰かがいるわけでもないのに、わざわざ固い床の上に正座して腕を組む。さて、まずはどこから考えようか。

まず一つ目。蒼也は俺に愛してると言ってほしい。
それはつまり。つまり?

「のっけから難易度高すぎんだよ!!」

床に向かって両こぶしを振り下ろすと、今度は両隣と階下からの壁ドンがやってきた。今度菓子折りか何かをもって謝りに行くことが決定した。

わからない。まずどこから考えればいいのかがわからない。
どこから考えても恥ずかしいし訳わからないし。

だいいち、額にキスをされて、愛してると口にすることを要求されて、それだけだ。肝心の蒼也がどう思っているのかわからない(目を背けたいというのもあるけど)。

わからないわからないと、その言葉ばかりがバカみたいに脳内で反響しあって、まともな思考ができなくなる。
結局俺は、いつもと同じように布団に入って、逃げるように目を閉じて眠りの世界に逃避するほかなかった。


翌日。
突然隕石が降ってきて大学が休講にならないと願ったが、やはりそんなことはなく、いつもと同じように大学は始まる。
しかも、朝っぱらから蒼也と同じ科目。

できるだけ隅っこに座って、向こうから見つからないよう、かばんも使って画策してみる。だがしかし、ここで大きな障害が現れた。

「おい、何してんだみょうじ」
「ぎゃ!」

視界が極端に狭くなっていたせいか、後ろの存在に気が付かなかったのだ。
諏訪という、邪魔なことこの上ない刈り上げに。

きょとんとして俺を見るその目に思い切り目つぶしをしてやりたくなった。

「……みょうじじゃありません」
「嘘こけ」
「本当デス。私ニポン人ないネ」
「みょうじに借りた小説売っちまったわ」
「何してんのお前!」
「みょうじじゃねーか」
「あっ」

しまった、ついうっかり。あれ、ていうか俺諏訪に小説なんか貸してたっけ。
それを尋ねると、あっさり、借りてねえよ本読まねーだろお前、と返された。いつかひどい目に遭えばいいと思う。
立方体にでもなってろ。

なにも始まっていないのにどっと疲れて、机に顔を伏せる。
後ろから俺のつむじを押しながら、諏訪が声をかけてきた。

「どしたよ。振られでもしたか」
「……そこまで行ってない。もっと手前」
「手前? ……あ? なに突っ立ってんだ、風間」

風間。その名前に、俺は反射的に肩を揺らした。
あああ、諏訪が目立つから。

蒼也の視線的な何かをつむじにめちゃくちゃ感じる。それでも顔があげられずにいると、つむじを押す手がもう一つ加わった。違うのは、指先ではなく手全体ということ。

そこでようやく、自分が逃げられなくされていることに気が付いた。今いるのは隅の席で、出口方向にはおそらく蒼也がいる。背中は諏訪、横は壁。なんということでしょう。

俺を押さえつけたまま、蒼也は諏訪に言う。

「諏訪。ノート頼めるか」
「あ? いいけどよ。どしたんおめーら」
「問題ない」

問題しかない。

しかし蒼也は俺のつむじ、ではなくもはや頭をつかむと、そのまま持ち上げた。
まだ髪の毛を失いたくない俺はつられて顔をあげ、そっと目を蒼也からそらした。

蒼也はかまわず、俺のかばんを持ち上げて歩き始める。髪がぶちぃ、と嫌な音を立てた。

「行くぞ」
「い、行くってどこに」
「お前が素直に話せる場所だ」

それだけ言うと、蒼也はにぎやかな教室を突っ切り、廊下へと俺を連れ出した。


素直に話せる場所、として蒼也が連れてきたのは、大学図書館の地下書架。
つんとした本の匂いがどことなく落ち着かない。しかし、確かに人目はない。
だけど、そういう問題じゃなくてね。

「あ、あああの、そ、蒼也」
「逃がさんぞ」
「え、えと、その……ぅわ!」

壁に追いやられ、俺は腰をぬかしてその場にへたりこんだ。
さらに逃げ道をふさぐがごとく、顔の横には蒼也の腕。嫌でもあの時のことを思い出してしまって、顔が熱くなる。

せめてもの抵抗としてそっぽを向くと、蒼也は呆れたようにため息をつく。

「露骨すぎだ、なまえ」
「ろ、露骨ってなにが? 俺はぜんぜん普通ですけど!」
「ならこっちを向け」
「……そ、れは、無理……」

顔が動かせない。
俺だって、いつもみたいに蒼也と目を合わせて話したいけど、あの時の事がどうしても頭をよぎる。まともでいられない。
ところが、蒼也はそれをどうとったのか。

「……悪かったな」

唐突に謝る彼に、いったい何がだろうと疑問に思う。
俺がわかっていないことを察したのか、蒼也は淡々とした調子で続けた。

「困らせるつもりはなかった。ただ、お前の思いに関わらず、俺はそういう目でお前を見ている。嫌なら、あまり隙を見せるようなことをするな」

「……え、と……」

そういう目って、つまり、それは。

「お前が好きだ、なまえ」

いつから、とかどうして、とか。
気になることはあるけど、それを尋ねたところで、俺や蒼也の気持ちが変わるわけじゃない。無意味な質問だ。

ただ問題なのは、蒼也が考え違いをしていたこと。

そういう目で見られるのが嫌だとは、俺は一言も言っていない。嫌ならはっきり言うタイプだと思う。蒼也がそういうタイプだから、幼馴染の俺はそれに影響された。

嫌なわけじゃない。そうだ、嫌なわけではないのだ。

嫌じゃないから、こうして戸惑っているということを、蒼也にどうやって伝えたらいいんだろう。

平賀様

企画へのご参加ありがとうございました! そして、小説をあげ忘れてしまい、大変申し訳ありませんでした!
挙動不審というか、ただのおバカになっているだけな気がしなくもないです……。
ありがとうございました!

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