フィーリングチェック(これの続き)
気難しいエンデヴァーが「気難しい」と称する、難易度マックスの息子さん。
そのサイドキックとなることを義務付けられた俺。考えるだけで胃が痛くて死ぬ。
どうにか回避できないかと考えて、そして俺は気が付いた。
つまり、恐れ多くも俺が(エンデヴァーさん視点で)優秀だったから、サイドキックになれなんていうことを言ってきたわけだ。よくよく考えれば万年サイドキックを示唆された可能性もあるのだが。いやそれはいい。
つまり、やっぱりこいつじゃだめだ、と思わせられれば、回避できるのではないか。
思いついたときは我ながら名案だ、と思っていたものの、すぐにその難しさを思い知るところとなった。
まず第一に、そんな手を抜くようなことをしていたら、速攻で事務所をクビになるということである。
エンデヴァーさんはそれなりに熱い人で、一切の手抜きや妥協を許さない。事務所に入った安心感でミスを繰り返し、クビになった同期も先輩も後輩も、何度か見てきた。
そして二つ目は、俺が腐ってもヒーローだというところである。
「そぉいっ」
「ぐへあ!」
上空からかかと落としを食らわせると、敵は間抜けな断末魔を挙げて倒れこんだ。
わーわー騒ぐギャラリーに軽く手を振ってから、敵の腕を縄で拘束する。じき警察も来るだろうし、そうしたら引き渡して事務所へ急ごう。
「よし。君、大丈夫?」
「はい。ありがとうございました」
髪色が半分ずつ、赤と白の少年の安否を確認する。名門・雄英の制服だった。
俺が思いついた名案を実行できない理由の二つめ。それは、敵やら困っている人やらがいたら、反射的に動いてしまうところである。
平凡な高校の平凡なヒーロー科を平凡な成績で卒業したとはいえ、これでもヒーロー。
動かないと自分が気持ち悪くて仕方ないのだ。
捕まえた敵を警察に引き渡し、俺は急いで事務所へと向かった。
今日は早く来いと、エンデヴァーさんに言われているのである。
ほぼ飛ぶ勢いで事務所にたどり着き(1分遅刻した)、コスチュームに着替え、今日も燃えている彼のもとへ。
やはり1分といえど遅刻は遅刻で、エンデヴァーさんはいつもより多めに燃えていた。
「遅い!」
「すみません。敵が出まして」
理由を説明すると、いかつい顔が少しだけ緩む。
「む……なら仕方ないか……。いいかみょうじ、今日は焦凍とお前を会わせる」
緩んだそばからそれかよ、と怒鳴りたくなった俺は悪くない。
いや、このことがあったからすぐ許してくれたのか。ああああ。
頭が痛くなりながら、ひとまず笑顔を取り繕った。
「あ、あー。あの話ですね。やー冗談とかじゃなかったんですね」
「冗談なわけがあるか。まだどうにも子供の癇癪を捨てきれていないが、会わせるのは早いに越したことはない。今日は早く上がって、そのままうちに来い」
「えっ……とー、その、今日はですね、予定が……」
「…………」
「……あるかと思ったんですが、気のせいでしたね」
俺が肩を落とすと、エンデヴァーさんは満足げにうなずき、パトロールへと出かけて行った。くそ、今度事務所のブログ記事書くとき、全部エンデバーにしてやるからな。
とはいえ、彼の中で決定事項なら、もはや仕方がない。
俺を気に入るかは息子さん次第ではあるし、気に入らないほうに賭けるしかないか。
あの気難しさを受け継いだであろう息子とか、嫌な予感しかしない。
筋骨隆々だったら嫌だな。プロテインを強要されそうで。
『あ、朝の』
会ってそうそう、俺と焦凍くんの声が重なった。
筋骨隆々でもプロテインでもなく、噂の「焦凍くん」は、朝に俺が捕まえた敵が襲っていた子供だった。向こうもそんな認識だったのか、最初の言葉が「朝の」である。
くそ、助けてよかったのか助けないべきだったのか。まあ救けないっていう選択肢はないんだけどさ。
「知り合いか」
「てめえに話す義理はねえ」
しかし、プロテインや筋骨隆々よりもなおつらい、この家族の確執。
エンデヴァーさんと焦凍くんが同じ場所にいるというだけで、ここだけすでに氷点下である。いや、まあ家族に対する物言いがあまりよくないのは知っていたけど、お父さんとしてすでに認められてねえじゃねえか。なにてめぇって。
俺の思春期でもそんなこと言わなかったよ。
「まぁいい。今日は顔合わせだ。いいか焦凍、コイツがお前の将来のサイドキックだ」
「あー……将来は普通に焦凍くんが選んでいいと思うんですけど。みょうじなまえです、よろしく」
「……轟焦凍です」
自己紹介しつつ、お互いに頭を下げる。
しかし、エンデヴァーさんは俺の言葉が気に入らなかったのか、首根っこをつかんでがしがし揺らしてくる。毎度思うけどその身長くれよ。
「お前は何を言っているみょうじ! 焦凍はオールマイトを超えたトップヒーローになるべく作った仔だ! 普通など許せるか!」
「そういうところがトップになれない理由なんじゃ、あっスンマセ」
「貴様ぁ!!」
思わずぽろりと本音がこぼれ出て、エンデヴァーさんはぶんぶんとさらに激しく俺を振り回す。
個性の影響で俺の体は軽いから、面白いくらいに視界が回る。まぁ気持ち悪いが、酔うほどではない。俺がしょっちゅう失言をするので、そのたびエンデヴァーさんはこういうお仕置きをしてくる。服がよれるのでぜひやめていただきたい。
「ふん! とにかくみょうじ、お前は死ぬ気で焦凍のサポートをしろ! いいな!」
そう言い残し、エンデヴァーさんは部屋から去っていった。
残された俺は、正座でしびれた足を崩し、立ち尽くしたままの焦凍くんを見上げる。
「エンデヴァーさんはああ言ってるけど、サイドキックとかは自分で慎重に決めたほうがいいよ。俺の同期で、サイドキック選びに大失敗したヒーローいるから」
「……そうなんですか?」
「そう。性格も個性もぜんぜん合わないのに、見た目で決めたらしい」
焦凍くんは俺に少しだけ近づいたが、それでも離れたところに腰を下ろした。
なんというか、野良猫っぽい。舌を打つ代わり、俺は再びサイドキックの話をする。
「あとは、選んだ事務所が全然毛色違って、まったく活躍できなかったとかね」
「どうやって選んだらいいんですか」
「まぁ個性とか……活動の系統とか……。……ごめん、俺めっちゃフィーリングだからなんも言えないわ」
たまたま目についたから応募して、とんとん拍子でサイドキックになったという経緯である。
最初はたいした活躍もなかったのが、今ではこうして、息子のサイドキック候補にまで出世した。
笑える。
しかし、気を悪くするかと思いきや、轟くんは少しだけ表情を緩めた。気がする。俺が首をかしげると、彼はエンデヴァーさんが去っていった先をちらりと見て、ひざを抱えこむ。
「あいつのこと、そんな風に言う人、初めて見ました」
「そう?」
「はい。……それに、口答えしてるところも」
「それはまぁ、うん」
あの事務所で俺だけだろうな。自分が事務所で浮いているのは理解している。
焦凍くんはさらにじりじりと俺に近づいてきて、俺のことをじっと見つめた。
なにからなにまで猫っぽくて、頭を撫でてしまいたくなった。
「……あいつの言うとおりにするのは気に食わねえけど」
「ん?」
「みょうじさん、俺のサイドキックになってくれませんか」
まるでそうするのが当たり前のように焦凍くんが言う。言われた俺も、大した驚きはない。
そんな気がしていたからである。
「その心は」
ひとまず聞いてみると、焦凍くんはさほど悩んだ様子も見せずに答えた。
「フィーリングです」
「よし、乗った」
いい加減我慢ができなかったので、将来のヒーローの頭を思う存分撫で、俺ははからずもエンデヴァーさんに少しだけ感謝した。
ずー様
企画ご参加ありがとうございました! 轟夢でした!
主人公の個性はあんまり決めていませんが、なんとなく相性がいい個性と脳内保管していただければと思います……。
題名は某番組を見ていた人ならなんとなくわかるかもしれません!
お楽しみいただけたら幸いです!