一緒にいましょう(これの続き)
「じゃあお母さん行くね。爆豪くん、お構いできなくてごめんね」
「いえ、騒いですんませんでした」
「いいのよ。なまえは駄目だけど」
「おい」
「親に向かっておいとか言うんじゃないの。じゃあ戸締りしっかりね」
「いってらー」
騒いだことに対し、俺を重点的に叱ってから、母親は出かけて行った。
というのも、明日から一週間ほど出張なのだが、今から出ないと間に合わないのである。父親が帰ってくるのは夜遅く。
つまりは。
「よぉおし覚悟しろみょうじてめぇ……!」
「あ、やっぱりそういう感じですか」
ダイニングテーブルをはさみ、ぐるぐると回りながら爆豪から逃げ回る。遊んでいるように見えるがこれは真剣勝負だ。ここで明日の俺が決まる。本当にしゃれにならん。
いよいよ個性を使ってでも逃げようかと考え始めたところで、電話が鳴り始めた。
一旦休戦、と手で制しながら電話に近づく。まるでマ●オがワ●ワンを前にしたような心地で受話器を取り、耳にあてた。
「はいもしもし。……あ、なんだ父さん。どしたの? ……うん、……んん!? マジで!? え、いや別に……はい……うん……。わかった、適当にやっとく……はい……お疲れさま。ばいばい」
父親と会話を終え、受話器をそっと下ろす俺。いぶかしげに見る爆豪。
これを言ったら俺、本当に明日死ぬんじゃないだろうか。いやでも、言わないで後で知ったらそれも怖い。爆破される。
頭をおさえて煩悶する俺を、爆豪はいよいよ頭のおかしい人を見る目で見てきた。うぐぐ、俺に轟くらいの個性があれば、お前を本気でぶっ飛ばすのに。
聞こえよがしにため息をつくと、爆豪のこめかみに青筋が浮き出る。
「なんだてめ……」
「今日、父さん帰ってこないってさ」
「…………」
爆豪の言葉を遮って言うと、怒鳴りかけた顔のまま爆豪が固まる。聞いているのかいないのか、わからないので再び繰り返す。
「今日、父さんが帰ってきません。母さんは出張です」
「……おお」
「はい、それはつまり?」
「……二人だけ?」
「そうです。つまりお前がやりすぎると俺(の足腰)が死に、家の中のことができんわけです。アンダスタン?」
「クソむかつく」
爆豪は理不尽極まりないことを言いながら、俺の額にチョップした。
しばらく彼は頭をがりがりとかいて何事か考えていたが、やがて俺の腕を掴み、部屋へと歩き出した。
あれ、やっぱそういう流れ?
俺の部屋に入ると、爆豪はようやく腕を放して、仏頂面のままさっき座っていた位置に再び腰を下ろす。
意図が理解できなくて、部屋の入口でぼけっと突っ立っていたら、彼は苛立たしげに俺を見た。
「なに突っ立ってんだ。早よ来い」
「はよこいって……え?」
「ん」
爆豪が叩いたのは、あぐらをかいた自分の膝。
はよこい、膝の上。
……ゑ?
じっとこちらを見てくる赤い目が怖いので、おそるおそる近づく。隣にいったん膝をついて、爆豪の顔を見上げた。おそらく情けない顔になっていることだろう。
しかし、なおも向こうは待っている。これは、俺が動くまで終わらないな。
「……お邪魔します」
さすがに乗り上げるのは恥ずかしかったので、引き締まったももに頭を落とす。
硬いわ痛いわで全く寝心地はよくない。しかし、爆豪の機嫌は多少上向きになったのか、ぶあつい掌が俺の髪の毛をわさわさとかき回した。
なんだろう、落ち着く。
「なんかほかにねーのか、録画してあるやつ」
「あー……。あとはやりすぎ都市●説とか、心霊動画集めた系しかないかも」
「んじゃそれでいい」
「りょーかい」
横になったままリモコンを取って、テレビをつける。
録画してあるものの中から一時間くらいの番組を選択し、再生スタート。血まみれの女が鏡に映る映像から始まり、ランク付けされた映像たちが流れていく。
ただ横になっているだけなのに、爆豪の膝というだけで、どうにも安心してしまう。
こいつは安心とは程遠い人間なのに。
体温の高い手に頭を撫でられて、うとうとと眠気が襲ってくる。
「オイ、寝んな」
膝が揺れて、頭がバウンドするように持ち上がる。一瞬だけ衝撃で目が覚めたが、再びまぶたが降りていった。
頭の中心がもやで巻かれたような感覚が心地いい。
「むり。ねむひ」
「……わぁったよ、寝てろ」
「ごめん……ふぁ」
あくびをしながら、もぞもぞと体を丸める。
意識が完全に落ちる前にと、顔を上にあげた。思ったよりも近くに爆豪の顔があって少し驚いたが、ちょっとだけ頭を浮かせる。
どちらからともなく唇をくっつけて、爆豪は最後に俺の上唇に歯を立ててから、顔を離した。
「おやすみ……」
「おー」
ぱたりとももに頭を落とし、俺は抗うことなく睡魔に引き込まれた。
大量のシラスに追いかけられる夢を見て目を覚ますと、周囲は真っ暗になっていた。
今の時刻を確認するため、寝転がっていた体を起こそうとしたら、何かが俺を抱きしめていて動けない。
背後から抱き着いてきている何か、もとい爆豪を見ると、起きている時とはかけ離れたあどけない顔で寝息を立てている。人を抱き枕にしやがって。
腕だけ引き抜いて、深く刻まれたしわの消えた眉間をなぞる。
少しむずがるような様子を見せたが、起きる気配はない。
「顔はいいのに……」
心からそう思う。
あの性格だけどうにかなれば、もっとモテただろうと思う。性格がクソすぎるからか、爆豪に思いを寄せる子は思ったよりも少ない。
俺にとっては助かるけど、こう、勝利に対するストイックさだとか、あとは純粋な強さだとか、周囲に知ってほしいこともたくさんあるのに。
超絶笑顔の爆豪を思い浮かべてみたが、吐き気がしたので即やめた。
目にかかりそうな髪の毛をはらってやると、俺の頭の後ろでぶるぶると何かが震える音がした。首をひねって確認すると、爆豪の携帯。
画面には「家」との文字。
手を伸ばして通話を押し、俺が出る。
「はい、爆豪勝己の携帯です」
『勝己! あんた遅くなるなら……って。あら、お友達?』
「まぁ、そんなとこです」
爆豪母、初めて声聞いた。考えてみれば爆豪の家に行ったことないな。
『ごめんなさいね、勝己いる?』
「あー、いるんですけど、今寝てるんですよ。今俺の家で」
『やだ、ごめんなさい! たたき起こしていいから、うちに帰ってくるよう伝えてくれる?』
「や、いいですよ。今日どうせ俺一人だし、お母さんさえ良ければ、勝己うちに泊めてもいいですか?」
『え? でも、ご迷惑じゃない? 迎えに行くわよ?』
「いえ、平気です。一人だとつまんないし」
『そう? ……じゃあ、ごめんなさい、お願いしちゃおうかしら。ほんとにすみませんね』
「気にしないでください。それじゃ、明日になったら帰るよう言いますんで。では」
電話を切り、携帯を置く。
抱きしめる腕の力が強くなったのには気が付いていた。
「やんないかんね」
「……チッ」
舌打ちすんな、と口だけは文句を言いながら、勝己のほうに体を向けた。
不満そうなものの、ほんの少しだけ嬉しそうな顔がうっすらと見える。
俺は笑って、遊んでいた両腕で温い体を抱きしめた。
久我様
企画へのご参加ありがとうございます! 爆豪夢でした!
一緒にいたかったから、の続きということで、あの後は至極健全に過ごしました。みょうじくんの全力防御とかっちゃんのわずかばかりの理性のおかげで。
楽しんでいただけたら幸いです!