ドレッサーの上に、ちょんと乗せられた可愛らしいパッケージの化粧道具たち。

それらは先日、耳郎さんに付き合っていただいて購入した、中高生に人気だというブランドのものだ。
聞いたことがないブランドだったけれど、人気なら間違いはないだろうと一式購入した。

「……さて」

教わった通り、顔を保湿して、まずはクリーム状の下地を手の甲にのせる。頬や鼻、額にちょっとずつのせて、ムラにならないように伸ばす。

『八百万は肌きれいだし、そんなベタベタくっつけなくていいと思うよ』

耳郎さんの言葉を思い出しながら、厚化粧にならないよう、かといって全く何もしていないようにも見えないよう、気を遣いながら顔を彩っていく。

中学の間は、あまり華美にならないようにとお母様に言い含められていたため、化粧に手を出したことはなかった。せいぜいが日焼け止め、化粧水の類。
それが今、どうしていきなり化粧を始めたのかというと。

「きゃっ!」

突然、ドレッサーの隣に置いていた携帯が震え、肩を揺らした。
おそるおそる画面をのぞき込むと、メッセージが一件来ている。なまえ、と名前が出ている。メッセージは「もうすぐ百の家つくよ」というもので、それを見たとたん、チークもまだなのに鏡の向こうの自分の頬が赤く染まった。

幼馴染で、小さいときから一緒だったなまえさん。
高校で同じ学校に通い出して、ようやく思いを告げることができた。その時のことを思い出すだけで顔が熱くなるけれど、色よい返事をもらい、彼氏彼女という関係になった。

今日は、そのなまえさんと、付き合って初めての、その、デート。

「は、はやく終わらせなくては……!」

チークブラシでピンク色の粉を取り、頬にはたく。だけど、顔が赤くて濃いのか薄いのかよくわからなかった。

あとはリップスティックをと、本体を繰り出して唇にあてる。
しかし、突然部屋に響いたノックの音に驚いて、手からリップが滑り落ちてしまった。それどころか、繰り出しすぎたのか、落ちた衝撃で真ん中からぽっきりと折れている。

買ったのはこれ一本。お母様に借りるにも、これと同じ色があるかどうか。どうしようどうしようと慌てていると、無情にも部屋の扉が開けられた。
扉の向こうにはメイドが立っていて、その後ろになまえさんがいる。

「お嬢様、みょうじ様がお見えです」
「百ー、来たよー。……百?」

ドレッサーの前でおろおろしている私を不審に思ったのか、なまえさんがメイドに断って私の部屋に足を踏み入れる。
そして折れてしまったリップスティックの前にしゃがみこむと、ああと声をあげた。

「これ折れちゃったのか」
「……そうなんですの……。せっかく、友人と一緒に買ったのに……」

それに、この1週間、毎日練習したお化粧の完成形をなまえさんに見ていただけないのが、悲しくて仕方がない。

目が潤みそうになった時、顔を上げたなまえさんが励ますように笑った。

「大丈夫だよ。折れたってまだ使えるし、口紅用の筆みたいなのが確かあったと思うよ」
「まぁ! そんなものが?」
「うん。姉ちゃんが使ってた。持ってないなら、今日買いに行こうか」
「ええ、ぜひ! ……でも……」

まだ使える、というのはうれしいけれど、それまではリップがないとなると。

やっぱりすべて出来上がってから見てほしかったと、顔を俯かせる。

それを見た彼が、折れてしまった方のリップを手に取り、指を滑らせる。赤い色素が付いたその指を、冬芽さんが私の唇に滑らせた。

ぐっと近くなった距離に息を呑む。
しかしそれにも関わらず、冬芽さんは細かく小指を動かし、唇にリップをのせていった。

「……うん、よし。きれいに塗れた」
「あ、ありがとう、ございます……」
「いいよ。……今日はまた、一段と可愛いね、百」

大好きな人ににっこり笑われて、そんなことを言われて、赤くならない人間がいたら見てみたい。


「でもちょっとチーク濃いめ? 可愛いけど」
「それはなまえさんの……と、というか、随分詳しいんですのね?」
「ああ、うん。姉ちゃんの影響」

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