夜間の防衛任務から帰って来た俺の目の前にあるのは、どこの漫画かと疑いたくなるような惨状。

白い無地のシャツのはずが、黒い模様が背中にくっきりと。葉っぱのような形のその模様は、うちにあるアイロンとまるっきり同じ型。

俺の背中に貼りついて、さきほどからえぐえぐ泣いている国近を見たら、大体理由は察してもらえるだろうか。

「ごめんねぇ〜……ひっく、お鍋吹きこぼれそうだったから見に行ったら、いつの間にかこんなことになっててー……」
「あー……うん、そっか……」

ふくよかな胸がぎゅうぎゅう背中に押し当てられて気になるが、ここまで大泣きしていると叱る気にも注意する気にもなれない。たかがアイロンがけを失敗したくらいで、ここまで泣く必要もないのに。

ひとまず無残な姿になったシャツを椅子にかけて、国近のほうに向きなおる。
びくついた様子の彼女の頭をぽんぽんと撫でた。

「うぅー……」
「はいはい、よしよし」

さらに強く抱き着いてくる国近を抱え上げて(ちょっと腰がやばい音した)、人をダメにするビーズソファにどっかりと腰を下ろした。

「気概はわかったから、そんなに気にしないでいいよ」
「だって、でもぉ……」
「ん?」
「高校卒業したら一緒に住むのに……」
「だから、気にしなくていいって」

国近は今年、高校を卒業する。
卒業したら、今俺が一人暮らししているアパートで一緒に住むということになっている。
ただなんとなくこぼしただけの言葉だし、俺自身はそこまで真剣にとらえてもいなかったのだが、国近は違った。

家事が苦手だからと、しょっちゅう俺の部屋に来ては洗濯や料理や掃除を練習しているのだ。聞いたところによると、家でもやっているらしい。
料理はうまくなったし、掃除もまぁ俺が気を付ければいいし、洗濯は洗濯機に入れるだけだしと、そこまで問題もなさそうに思えたのだが、たまにこうして失敗をする。

「たかがシャツ1枚じゃん」
「やだー……今日、お料理だってデザートまでつくったのに、アイロン失敗しなければフルコンボでパフェとれたのに……」
「あのなあ……」

ゲーム感覚でやるなと言いたいが、ゲーム好きで負けず嫌いの国近のことだ。
その方が張り合いも出るのかもしれない。ひとまず満足がいくまで付き合おうと、真っ赤になってしまった国近の目元にキスした。

驚いたように瞬きして、途端にニコニコとはにかんだ笑顔を見せる国近に苦笑いしながら、再び頭を撫でた。

「シャツくらい買いなおせばいいんだから、いつまでも泣くなよ」
「……うん。えへへ」

機嫌が上向いたらしい国近を膝から下ろし、立ち上がる。

「じゃあ、俺風呂入ってくるな」
「いってらっしゃーい。あ、ねえねえ、わたしが背中流してあげるよー」
「いや別にそれは」
「一緒にはいろーよ。わたしもまだお風呂入ってないもん」

ぐいぐいと背中を押され、嫌とも言えずにそのまま風呂場へ行く。
本当はとっくに入ったくせにと、わずかにシャンプーの匂いがする国近にくっつかれながら思った。


「わたしの裸見てきゅーんってしたりとかしないの?」
「え? あー……うーん……」
「……」(うりゅ)
「あ、するする超する。めっちゃきゅんきゅんする」

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