「……俺が言えるのはこれくらいかな。あとは自力で頑張って」
「はい! ありがとうございます!」

俺が喋ることを律儀にメモなんか取りながら聞き、三雲くんは嬉しそうに頭を下げた。

ただいまの時刻、午前2時を過ぎたところ。
寝る準備が万端だった俺に電話をかけてきて、対戦相手の情報を教えてくれと頼んできたのは三雲くんだ。

それを二つ返事で引き受けて、彼の所属である玉狛支部にほど近い場所で会うことにした。自転車をこいで、待ち合わせより少し早めに行ったのに、三雲くんはすでに待ち合わせ場所にいた。

しかも、上着も着てないわ、体は冷え切っているわ。
どうやら新しい戦法を思いつくのにあと一手だそうで、いてもたってもいられなかったのだという。

だとしても、風邪をひいたら意味ないだろとたしなめたら、トリオン体なら平気ですときた。京介は彼に、自分の体調を心配することも教えるべきだ。

「ごめんな、大したこと教えてあげられなくて」
「いえ! データじゃわからなかったことも、たくさん聞けました。……あ、あの、こんな時間に呼び出して、本当に……」
「いいよ。明日昼の部だもんな。準備できるギリギリまで準備したいっていうのはわかるよ」

うちんとこの隊長もそうだったよ、深夜でも呼びつけられて大変だったよと、あくまで三雲くんだけではないことを伝える。それを聞いて少しほっとした顔になった三雲くんは、再び俺に頭を下げた。

「本当に助かりました。おかげで、考えていたものが形になりそうです」
「そっか。なら良かったよ。頑張るのはいいけど、根詰めすぎないようにね」
「ありがとうございます。あ、そうだ、何かお礼しないと。何がいいですか?」
「うーん」

僕にできることならなんでも、と、ほしかった情報が手に入ってテンションが高いのか、そんなことを彼は言う。それに悩むようなそぶりを見せながら、心の中で言う。

三雲くん。
自分の隊のことでもないのに、所属も違うのに、電話をもらっただけでこんな深夜に駆けつけてしまう人間なんだよ。なんでもなんて、言っちゃだめだよ。

素直だから、きっとここで、じゃあちょっと手伝ってほしいなんて言って、自転車にのせて家まで連れて帰って、それで。

そんなことを考えていても、きっと三雲くんは気づかない。
疑うことなくついてきて、「そう」なって初めて真意に気が付いて、悔しそうにこちらを見上げる。
もしくは、せめてランク戦の後にしてくださいなんて、雰囲気のないことを言う。いいや、逃げ出して誰かに教えてしまうかな。俺がこんな人間だって。

「あの、先輩?」
「んー、いいや」

俺と10センチも違う三雲くんの頭に手を乗せて、すでにぼさぼさの頭をさらに混ぜ返す。
この頭で、たくさんたくさん、色んなことを考えている。俺が入り込む余地なんて、これっぽっちもないくらいに。

「何にもいらない。その代わり、玉狛第二が勝つところ見せて」

君の作戦が、きちんと実を結ぶところを。

そうして、チームメイトと喜び合う姿を見せてくれ。
三雲くんは、寝不足のせいか少し悪かった顔色をほんのり朱に染めた。そして元気よく、約束しますと宣言した。うん、元気でよろしい。

彼の行く道に、俺の気持ちは邪魔なだけだから。

だから君が、ゴールにたどり着くまでは、この感情は寝かしつけておこうね。
君のゴールがどこかなんて、知らないけど。


お題は一月の化石さまより

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