「あ、珍しいのあるね」
「ん? ああ、それか」

机の上に置いてある個包装のアメを見て、王子が声をあげた。
うちの隊のオペレーターがくれたものである。かわいいパステルカラーのキューブが二つ、小さな袋の中に入っているアメ。

一つずつ食べてもよし、二つ一気に食べてもよし。俺は二つ食べる派だ。

そういえば王子は甘いものが好きだったかと、一つ取って王子の頭の上にのせる。

「やるよ。お食べ」
「いいの?」
「うん。俺も一つ食べる」

手近にあった一つを取って、包装を破く。
オレンジとモモのキューブをぱくりと口に含み、ごみはゴミ箱へ放りこむ。なんだかこの形がアステロイドみたいだよなと、そんな冗談を言おうとして、王子のほうを振り向いた。

しかし、王子はまだアメを開けず、じっとこちらを見ている。手の中には薄いピンクと濃いピンクのキューブがある。モモとグレープだろうか。

「ねえ、なまえ」
「ん?」
「ぼく、オレンジのほうが好きだなあ」
「え。じゃあこっちにする?」

オレンジとおそらくパインの組み合わせを渡すと、それも首を振られた。

「そっちはグレープ入ってないじゃない」
「えー……つったって、もうオレンジないよ。俺食べちゃったし」
「うん。だから、なまえのちょうだい」

笑顔でとんでもないことを言うと、王子は俺の口の中にいきなり指を突っ込んできた。

「んぐっ!?」

王子の骨ばった指が、ぐちゃぐちゃと口の中をかき回す。
ただアメを探しているだけだろうに、まったく無関係だろう喉の奥まで伸びてくる。苦しさに涙が浮かんできて、無遠慮にかき回す手を引きはがそうとした。

しかし、なかなか手は離れようとしない。

「んー、オレンジどこだろう。ねえなまえ、きみも舌動かしてよ」
「う、ぐ、んん、」
「そうそう、上手上手」

顎を唾液が伝っていき、シャツに滲む。舌の裏にあったアメを押し出すと、ようやく王子はそのうちの一つを取り去っていった。
やっと自由に息ができるようになって、せき込みながら新鮮な空気を吸い込む。満足げにアメを口に入れる彼を俺はぎっとにらみつけた。

「おっ……前さあ! 何度でも言うけどその脈絡のない行動やめろ!」
「だって、オレンジ食べたかったんだもの」
「だものじゃねえよ!」
「? なまえもオレンジ食べたかったのかい?」

きょとんと首をかしげる王子を殴りたくなる気持ちを、ぐっと押さえ込む。
こいつは天然で鬼畜というか、こちらの都合なんか一切考えず自分のやりたいことを押し通す。しかも俺にだけ。
そんな特別は全くもって嬉しくないのにも関わらず。

怒る方がアホらしいのは重々承知だから、ひとまず大きく息を吐いて抑えようとした。

のに、俺の唾液のせいでてらてらと光る指をぺろりとなめたりしやがる。

「あ、なまえのよだれが甘い」
「お前ほんといい加減にしろよ!!」

頼むから、誰かコイツにがつんと言ってくれ。


「ねえねえ、なまえ」
「うるさい」
「なまえの口いじってたら体熱くなっちゃった」
「バカじゃねーの?」
「今度は僕の下の口に欲しいな」
「ほんとにバカじゃねーの!?」


一応王子が受けです。

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