最近ちょっと物入りで、バイトの数を増やすことにした。
時給がよくて拘束時間がある程度決まってて、ということを考えて探してみた結果、家庭教師のお仕事を紹介された。
なんでも、生徒さんの成績自体には全く問題がないものの、性格に物凄い難あり。
勉強を教える方はこの際適当でも構わないから、性格を矯正してくれという、なんとも無茶な話。
ただ時給のほうはものすごくよくて、さらに勉強が適当でもいいということだから、そこまで頭のよくない僕でも可能なんじゃないか。
正直な話、そんなあさましい思いと時給につられ、僕はこの話を受けることにした。
生徒の名前は、赤羽業。
バイト初日、僕は赤羽家へ赴いた。
最初は簡単な授業と自己紹介で済ませるという取り決めだったのだが、ご両親はお留守で、生徒さんが出迎えてくれた。
「え、えっと……赤羽、ごう? くん?」
「カルマだよ、せんせー」
「えっ!? あ、あー……ご、ごめんね、赤羽カルマくんね……」
生徒はいわゆるキラキラ……いえ、今風の名前でした。
あかばねかるま、とルーズリーフにメモして、改めて向き直る。
「あー、と……僕は、みょうじなまえです。芹沢大学の一年生で、ええと……国語担当か。赤羽くんは成績はいいって聞いてるから、教えることないかもだけど……」
「そんなことないって、俺国語苦手だし。あ、そうそう。俺椚ヶ丘ね、一応」
「くぬっ……え!? すごっ!」
椚ヶ丘というと、中学高校ともに名門中の名門だ。
僕が一瞬目指して一瞬であきらめた蛍大に進む生徒も多いらしい。
いよいよ、僕がやとわれた意味が分からない。そりゃ勉強は力いれなくていいって言われてるけど、芹大と椚ヶ丘って。
「すごくないよ、クラスは落ちこぼれんとこだし。あ、それより、最初にテストの結果とか見た方がいーんだよね?」
「あ、うん、できれば」
「じゃあ、部屋いこっか」
勧められるままに廊下を歩く。広い家だ。
あとなんかインドっぽい小物があちこちに。
「なんかアジアっぽいでしょ、この家。親がインドかぶれでさー」
「そ、そうなんだ……」
雑談をふってくる赤羽くんの声は明るい。表情も別に攻撃的なものはない。性格に物凄い難あり、と聞いていたけど、今のところそんな片鱗もない。
もしかしたらそんな悪い子じゃないのかも、と思いながら、どうぞと開かれたドアの中に足を踏み入れ、絶句した。
「ちょっと散らかってるけど、まあそのへんかけてよ」
笑顔のまま、赤羽くんは自分の椅子にかける。
机の上はきちんと整頓されて、教科書やノートが並べられ、いつでも勉強できるようになっていた。
そう、机の上だけは。
「……いえ、立ってます……」
カーテンには血が飛び散り、リアルなゾンビが描かれている。
ベッドには謎の魔法陣、そして髑髏が何かの儀式のごとく並べられ、壁には大きな目玉ののれんがかけられ。
ベッドサイドのチェストの上は、人体模型と骨格標本、得体のしれないホルマリン漬けが飾られていて、一言でいうと、
「(超絶不気味だ……!!)」
正確に難ありとか、そういうレベルじゃない、気がする。